ステロイド#9

 いやまぁ前回みらの家にあおが下宿って話が出て、今回ムリでしたって展開になるはずもないんだけど、それでも感慨深く視聴してた。どう考えてもこんなことありえないんだけど、それでも無理やりゴリ押ししてくるその意図だよな。みらん家とあおん家とが隣同士で、生まれたときから交流があって、なんかの用事の折にはお互いがお互いの娘を預かったり預けたりと、それはそれは親密な付き合いをしてたっていうんならまだしも、今まで振り返ってみても、例えば最初にみらとあおが出会ったキャンプでも双方の親は没交渉だし、高校に入ってもお互いが友達ってことは知ってただろうけど、文化祭のときに始めて顔合わせしたみたいだし、そのような家庭同士が本当に娘を預けたり預かったりすると思うかといえば、やはり天文学的数字でありえんだろう。ただ、昔からそうだったかといえば、例えば貧しい村の秀才が、村の支援だとか、地元の素封家の支援を受けて上京する*1ってこともあったし、東京には地方の県人会の下宿なんかがあるところもあって、こう、なんか、成績優秀という但し書きはつくが、地方には助け合うって気風があった。とはいえ、それは地縁がまだしっかりしている頃の話であって、他人とはいっても遠い親戚筋だとか、知人の知り合いとかで、なんのかんの関わりがあって、地方がゆるい互助組織であったということもある。ところが、現代ではもう上京してそこで何代か過ぎてしまうと地方とのつながりもなくなってしまうし、かといって東京で新たな地縁が出来ているかというとそんなこともなく、個人分断化がまぁ極まった状態。隣人の子供がどうなのかといえばやはり無関心だし、子育てが終わってみれば、保育園幼稚園児相はNIMBYで反対運動が起こるぐらい。地域の子供会も、自分の子供が成長して脱会すればあとは知らんぷりだし、それこそ今回のコロナでの一斉休校で、なんつーか、ある家庭にとって子供は家計に負担をかける厄介者だし、そういう感じの家庭は保育園幼稚園学校学童は子供のお守りをアウトソーシングするための便利屋扱いをしてるのであって、決して子供の成長にとって重要な役割を持った施設とは思っていないことが明らかになったという。
 まぁコロナの件は余録としても、やはり原作者なりアニメテキストスタッフなり、そういう人と人との繋がりの希薄さを感じていて、まぁそういう状況をなんとかしたいという大層なものでもないんだろうけど、このままでええんやろかという問題提起な要素はあるように思ったし、なにしろこの話を、後は終盤というこのタイミングで持ってきているところ、これがこのシリーズの大きなテーマなんだろうなという感じはする。
 子供を預ける預かるは単なる人付き合いの範疇を超えてカネもかかるし責任も発生するのだけども、物語中ではそのへんで揉めないでかなりスルーに近い形なのはまぁ納得なのだが、今回かなりのキーパーソンなのはこの人。
f:id:corydalis:20200308212036j:plain
 今回のあおを預かるという重要な判断をしたのは生徒会長。おそらく彼女、別にみらやあおがかわいそうだとかそういうセンチメンタルで動いたのではないはず。あおを助けるというより、あおと共同生活させることがみらの成長の糧になると思ったからこそ即断即決に近い形で話を進めたということだろう。この構図だけでも、あおの下宿の件はみらはほとんどタッチしておらず、生徒会長と母親の間で話がついたんだなとわかる。母親は生徒会長を信頼してるし、かといってみさはもう家を出ていく身だし、あおが住むことになった以上、後々のことはなるべく関わらないようにしようという態度が窺える。あおに対しても、はちまき石を飾った神棚の手入れを頼むのも、それをすることでなんであおがこの家にいられるのかを都度再確認させるという意図もあるようで、そのへん抜かりはないというか。もし、生徒会長がおらず、みらがあの性格のまま母親に提案してもそこには不安しかなく、同居するようになるとしても、それはみらの説得ではなく、物語の都合上という要素が強くなるから、この配役はなかなか考えられてる。


 オマケ
f:id:corydalis:20200308213847j:plain
 なんか百合妄想をお楽しみくださいって感じだが、いつもお調子者のペルソナを被って韜晦してるすずが真剣な面持ちで贈り物をするのは、百合というより、士(大夫)に対するものに近いと思う。だからこそ生徒会長やってたのだろうが、人としての器の大きさに惚れるというか。決して登場機会や取り上げられ方は大きくなくって、ホント主役を邪魔しないチョイ役扱いなんだけど、絵では表現しないで、行動力から逆にその存在感を高めてるのなかなかにして丁寧。


 モンロー先輩だとか、チョコレート作りとか、他にも興味深いテーマもあるんだけど、今回はこのへんで。

*1:菊池寛とかそうだったはず