転天#11・12

 結局銀髪ヒロインの決意が貫徹して王家が簒奪されるに婿入りが果たされる話。最終回で主人公の転生前の話が語られるが、アレ、結局その真偽は確認しようがないのでそういう夢を見た…という話でもよいのがなんとも。まぁ彼女が発展させた「魔学」とやらが前世の記憶というか科学体系の賜物というのは読者にはわかるようになっているんで転生要素といえばそうなんだけど、あの世界の魔法理論を彼女独自の見識で発展させた…としかあの世界の人の目には映らない(他の作品だと確かに異世界の技術だという形になってるので)から、そういう意味でも転生要素がないといっても差し支えない。
 で、結局百合なのかよ…。というか、これは「士は己を知る者のために死す」の女版であって、銀髪ヒロインは婚約破棄騒動から救ってもらい、彼女自身の魔法が「至ってしまう」という主人公が銀髪ヒロインに贈与したその返礼として、彼女のために全身全霊を尽くす…という話でしかないから、はっきりいって主人公とヒロインのペアが男女の性別を超越したところにこの作品のドラマ性があるのであって、百合要素ですら飾りに過ぎない。というか、革命とか、自由とか、貴族の鼻持ちならなさだとか、そういうこの世界における社会情勢のすべてが、現代社会に即してこれらは解決されるべき諸問題…というふうになっているとはとても思えず、これらのすべも結局主人公と銀髪ヒロインの関係性を際立たせるためのスパイス要素でしかない。だって、この世界の平民は食うや食わずの貧しい生活をしているという描写もなく、貴族の子弟に平民の子供が殴られるとか罵倒されるというシーンはあっても、貴族階級の搾取によって平民がなにか生活に困窮してるとかそういう描写が一切ないので…。
 しかも気持ちが通じ合わなければ、解決方法は拳で語り合いながらポエムを絶叫するとか、まんま一昔のガンダムだよな…。
 前にも書いたと思うが、主人公が魔学を研究できたのも銀髪ヒロインが魔法の能力を高めることができたのも、彼女たちがその才能を伸ばすために必要な環境を整えてくれることのできる親ガチャに勝ったからであって、これがもし明日の糧にも事欠く貧困層に生まれてしまったら、たとえ潜在能力があっても伸ばすことなんてできないし、というかそういう潜在能力があることにすら気づかないことが大半だと思うんで、というか、そういう社会構造だというのはネットを見てると、そこそこネットリテラシーのある人には当然の前提のようになってきてると思うんで、それでなお原作を読んでこの作品を支持しちゃう人はこの作品のどこに魅力を感じてるんだろうという感じ。魔学の成果を平民にも施し国を豊かにするとか言ってるけど、例えば濡れたネコをかわいそうだからと乾かすために電子レンジに入れてスイッチポンしたら素プラッタになり、そういう注意書きをしてないからと企業を訴える事例が、それこそ先進国の合衆国で、それもこの事例何十年も前のことだったりするわけなんだが、科学のもたらす豊かさはアタリマエに享受するが、だからといって正しく科学を使うために自ら賢くなりましょうとはならなかったわけで、そういういかに自分たちが恵まれた状況で生きているかに思いを巡らせることもせず、やたら自由だとか自己決定権をポリコレ棒として振り回す様は自分にとっては滑稽でしかなく、電子レンジでネコはまだしも、ここ最近は特権階級が国民全体が豊かになるために制度を充実させてきたその社会システムをわざとぶっ壊して(要するに「ハック」して)私腹を肥やしてる最中で、そういう状況の中、昔では考えられなかった要求を庶民ですら発してる*1最中なのに、この作品ではやたら自由だの自己決定権を称揚し、豊かさをもたらす技術を何の批判も検証もせず社会に行き渡らせれば社会は良くなるッ!!!っとか、なんか脳みそお花畑やなという感じ。
 いやね、結局これは転生モノでもなんでもなかったのだけども、転生モノの大半は現実社会のポジフィルムやネガフィルムであって、ネガフィルムであることが多いんだけど、読者に作品と現実社会との対比をさせてその相違点に気付かせて、そこを物語上の表面には表れないんだけど、構造的なテーマとして提示する…ということをやったりもするんだけど、この作品にそういう要素があるようにはちょっと思えないので、好意的な読者層の着眼点を知りたいというか。いやだって、ラノベって基本キャラ商売なので、アイロニーを重視したらキャラに感情移入できないでしょってなもんで。逆にキャラを肯定したら、舞台背景が上記の通りハチャメチャなのでメッセージ性を諦めざるを得ないしで。いやまぁ自分がこのように、背景の一つ一つを検討したらオカシイと気づいたぐらいなので、そういう転倒した構造が込められてる可能性が一切ないとは言わんのだけども。

とんでもスキル#11

 化粧品を売ったりハンバーグを作ったり。翼竜退治も、結局この作品の魔物は全部従魔が狩るし食材にして料理のネタにするから全然危機感をあおられてもwwwって感じ。で、サクッと描写も短めに終わるのがありがたい。
 女神さま劇上かと思いきやエピローグは召喚されたときの勇者サイドの話だった。勇者の携行食がおいしくないというのはともかく、やっぱり仕事って何だろうなというのをしみじみと考えさせられる。AUOや最強陰陽師に限らず異世界転生モノのほぼすべてがセカンドライフ的な何かなのだけども、転生先の世界の大きな物語に関わらず、人生を自分のためにのんびり使うというテーマに一番寄り添ってるのが本作品だよなー。まぁその分ドラマ性は皆無なので、そこにただダラダラ過ごすのではなく視聴者を引き付けるエクスキューズが要るわけだが、そこは食と未知の世界での新しい体験ってので割と落としどころとしては無難やなという。
 そういやゼロ魔の主人公の少年役だったのが、今や渋声声優で活躍してるの時代の流れを感じてしまう。

テクノロイド#11

 ライブ勝負のやり直しになる話。なんかどんどの面白くなるな。韓国映画は権力に切り込む作品に特色があるとは聞くが、そういうものの影響なんだろうか。ただ、自分は韓流ドラマの評判を聞いて一時期韓国映画には見向きもしなかった時期がある…というか未だに見てないのでなんとも。メインのアンドロイドが子供を育てるために集められた若者という前回の種明かしにも驚いたのだが、死してなお子供に奉仕させるとか、まぁいうまでもなく乾いた雑巾をさらに絞るがごとく搾取される庶民のメタファーなので、あーここまで切れ込むか…と感慨深い。その子供が大学の研究者なのだから、日本のキチフェミが大学の先生様であって、彼女たちに国民が振り回される構造も兼ねているとかどこまで意地が悪いんだ…みたいな。権力側にとって危険な存在と認識されたら抹消されるとか、なんかこの救いがたい日本社会と丸写しやん。

トモちゃん#11

 無理して変わらんでもええやんという話。まぁ言われてみたらその通り…でしかないんだけど、今までの積み重ねよなー。確かに主人公とヒロインはいろいろ戸惑っていたけど清々しいほど彼らは変わってない。で、逆に友人二人が変わった…というか人間的に成長したという、主人公格ではなく脇役の成長物語という構造になってるのが嬉しい裏切り具合。

*1:要するにアベが税金チューチューして誰もとがめだてできないのなら、庶民のオレたちも抗菌チューチューさせろという話