ゲキドル#10

 アリスインでは新しい脚本での芝居をやるという流れ。かをる方面の話も盛り上がってきたんだけど、正直これはメインではないんだろうなと思う。振り返ってみても、確かにほのめかしや伏線は張っているけど、序盤から中盤はほぼ放棄状態だったし、終盤でどのように決着するにしてもアリスインの今後にはほぼ影響がない。もちろん大災害が何のメタファーなのか込められてはいるんだろうけど、どうも物語全体からすると重要度はそれほどでもないような気はする。
 それで、この作品が今まで何を描いてきたのか振り返ってみると、おそらく演劇界のガイドツアーなんじゃないかという気がしてる。昨今流行りの芸能プロダクションが俳優を抱えて、その手駒をどう使うか…って話ではなく、もろ演劇における劇団そのものを描いているというか。今となってはこの作品に混ぜられたアイドル要素はほぼ修飾としての役割しかないのだという気がしてる。そういう要素抜きに劇団の内部事情を描いても、おそらく視聴者は入り口にも入ってくれないから…みたいな。そしてそれは現状の演劇界隈の状態でもあるんだろう。
 今回のみどころは主役を巡っての劇団内部でのオーディション。もともとこの作品、声優にキャラを演じさせるのではなく、アニメキャラにゲキドルという劇を演じさせているという構造で、声優はむしろ意図的にキャラが若干大根であるように演じさせられてる。なので、今回のいづみとせりあの対決は視聴者としてわかりやすかったという。いづみがそれなりにうまい演技をしてるという演技なのだが、せりあの演技も負けず劣らずということが視聴者にもわかるようにつくられてたし、ではどちらが主役の思いを内面化して演技してたか?という点においてはせりあが圧倒してたから選ばれるのも当然というのが、これまた視聴者にわかるように作られてた。これは通常から舞台演劇のように演じてたら上滑りするし、かといって大根すぎる演技だと視聴者は白けるのでバランス大変だと思う。演出は結構気を配ってるハズで、舞台演劇におけるリアリティは、そもそも劇場の奥にまで伝わるような発声方法からして特殊なものだし、アニメの演技は、それこそ実写ドラマと比較すれば一目瞭然だが、舞台演劇より、よりリアリティはない。なので、声優の演技として、いかに視聴者に不自然に思われないよう劇中劇をどう演じるか結構神経はとがらせてたはず。今回の話の構成的にも、ここが見どころですよという作りになってるし、実際意識して視聴すると確かに声優はここに力を入れて演技してますよというのがわかってそのへん満足度は高かった。
 あと、せりあが脚本を変更して演じるという仕立てになっていたのだが、コレ、オモロイもんで、自分昨日か二三日前かにラジオの深夜番組でちょうど演劇で、公演の最初と最後で脚本がガラッと変わってるという話を聞いたばかりなので、あーなるほどと思った次第。舞台演劇の特色はなんといっても観客とのインタラクティブ要素なので、もちろん劇を仕上げる段階での脚本演出と演者のすり合わせもさることながら、俳優は公演中観客の反応を見ながら演じ方を期間中調整していくし、それは脚本演出家もそう。公演中台本は全く変えずに演技で対応するか、それとも脚本を書きなおしながら作品そのものを公演中にブラッシュアップさせるかは劇団によると思うが、そのへんテレビや映画のように、一度作品を作ってしまったら、あとは作り直すことでもしなければ作品は固定してしまうのとは性質が全然異なる。この作品でもそういう観客がいたが、自分ずっと公演の開幕から千秋楽までずっと通い詰めるファンがいるのを不思議に思っていたが、あーなるほど何度劇を繰り返してもそもそも劇は生モノであって一つとして同じものはない、しかもそれは演者が同じ演技をしなきゃと思っていてもそうなるのは不可避だし、そうではなくどの劇団も差はあれど観客を見ながら劇も演技も変化させてるんですよという、そういうダイナミックさに惹かれてるんだなというのがわかったという。
 TVや映画のように監督という指導的立場の者がおり、、俳優やその他のスタッフは基本的に監督たちの言う通りに動くってんじゃなくて、今回の話のように演者が脚本通りだと演じにくいと感じたり、観客に対する訴求力に難があるとなれば変更を求めもするし、決して上から落ちてくるものを受動的に反応するんじゃなくて相互相補的な関係が構築されてるという在り方が示されていて、これも今回のみどころなんだろうなという。
 というわけで、かをる関連の物語や、せりあの成長物語、アリスインの行く末だとか、群像劇的な側面もあって、いろんなストーリーラインが組み合わされているのだけども、結局のところこの作品、どのストーリーがメインだとかそういうのが主なんじゃなくて、「演劇」とは何かというのをいろんな側面から示してるんだろうと思う。ゆるキャンなどのマイナースポーツや趣味の紹介アニメが流行ってるけど、これもそれをそうと気づかせない紹介アニメのようなものなんだという気がする。