八男#12

 長男との対決騒動も終わり、第1話の開発の場面に戻るの巻。長男の怨念が、彼を操ろうとしていた連中に仇となって返るというのは予想外だったが、まぁそれ以外はまずまずの顛末。任命権を王に求めるときに、あの場にいたほぼ全員が主人公とグル…というのも、エリーゼ、ヴィルマを主人公が引き受けてるとかそんな関係性が築かれてるのでなんの不思議もないというか。そうやって貸し借り関係が連鎖していくってのは確かに貴族のあり方そのものではある。終わってみれば、生き抜くのが厳しい条件でなんとか成り上がっていくものというよりは、ある程度の地歩が固まったら、あとは権力者どうしのもたれあいって構造で、別にそれがいいものだという雰囲気でもないから、これ今の日本の状況と「完全に一致」してるのを見るにつけなかなかいやらしい皮肉になっていてgood。
 Wikipediaを見ると、興味深い項があって、それが主人公の嫁・ヒロイン。へぇ~、女キャラをこんな形でまとめてるのね…と、おそらくキャラ名見るだけだったらネタバレもないだろうとざっと眺めてみたらアニメではっきりした関係の四人だけでなく10人以上いたという。原作そんなことになってんのかと驚くとともに、あ~、これ源氏物語なのねと思い至った。っつーわけで、これ中世西欧の体裁をとってはいるが、前近代要素は洋の東西を問わずミックスされてるのだとわかった。正直あんま視聴してスッキリする要素はなくて、それなりに充実した生き方をするためには、主人公がそうであるように、まず生まれが一番重要で、たとえ八男であっても貴族に生まれなきゃ始まらんでしょ、出生ガチャを引き当てることが全て…みたいなところも、魔法という生まれつきの才能がなきゃ長男のように井の中の蛙状態で詰むでしょみたいなところも、もう個人の努力どこへいった…みたいな感じで、貴種流離譚の構造を逆手に取ってるのもそこそこ面白い。
 というわけで、この作品、エリーゼが出てくるまでは、もうホントに見どころがわからない作品で、視聴対象にして失敗したぐらいに思っていたのだが、途中から手のひらクルーで、結構次回が楽しみな作品だった。バトルシーンも興が削がれない程度にやっつけ仕事だったのが個人的にはありがたかった。OP映像見てたら絶対主人公パーティーがモンスターをバッタバッタ薙ぎ倒すRPGモノだろうと思ってたぐらいなので。こういう作品においてバトルの結果は明らかなんで、丁寧に描写されても時間稼ぎにしかならないんだよね。
 まぁこうクライマックスの盛り上がりからのカタルシスが秀逸なわけでもなく、こんないやーな構造を見せられるとフツーだったら気分が悪くなりそうなもんだが、よくこれがある程度人気作になってしまうのか不思議なところではある。もちろんそれなりにストレスがないような工夫はされていると見受けられるんだが、こう、商業的に成功することを半ば最初は捨てていて、自分の興味のあるテーマを詰め込んで一つの作品にするってのは、なろう系小説の特徴ではあるんで、作者が自分の趣味に浸ってある種突き抜けることができるってのもなかなか捨てたもんじゃないなと思った次第。

かくしごと#12

 唐突に漫画家を辞めたその後からの復活が語られる話。のっけからシリアスパートでそうくるか…と思い、それなら途中で中途半端なギャグパート入れるなよ…と思っていたのだが、さすがにそれはなかった。しかし小学館作家という認識がつよい久米田が講談社の連載作品で、主人公が集英社に連載してる設定とかよく考えたら凄いわな。しかし、子育てと仕事の両立って、昨今のシンママ問題の文脈で語られても良さそうなもんなのに、それっぽい雰囲気が微塵も感じられないのはやはりカネ持ちと仕事で充実してるって設定だからなのかな。
 なんかYoutubeあたりで、もう連載終了シークエンスに入っていて、仮に人気が出てももう続けられないって言ってたような気がするが、そのへん主人公が漫画家を辞めてからの話も見てみたかった気はする。とはいえ、作品を閉じるギミックにそれをもってきたのであろうから、連載が続くとなればおそらくギャグパートが延々と続くだけだったような気もするが、まぁ原作連載一度も目にしてないんで外野の勝手な言い分ではある。今しっとり振り返ってみると、久米田にしては中途半端な気がしないでもないが、別に久米田節が不発って感じもしないし、全体として話はよくまとまってると思う。自分が歳とったせいもあるとは思うんだが、突き抜ける代わりに現実との乖離度が高くなるのと、日常性でしっとりというのとはおそらくアンビバレンツなもんで、後者のようなあり方のほうが個人的にはどうしてもしっくりくるんだよな。まぁパンチが足らない分若い人の人気はつかみにくいと思う。自分は久米田にアファーマティブなので、あの久米田が描いた作品が今こうなのか…と感慨も深いが、思い入れのない人にはあまりフックしないかも。