サイコ3、ちょっとなぁ。

 全8話の第5話だし、まだまだ途中経過であって、話の中心は現時点では公開NGのメインキャラ二人の謎というゴールセッティングがされてるので、今までのお話は依然前フリでしかないんだけど、正直なところやはり第1期と比べて今一と感じてる。ただ、ぼんやり話を追っているぶんには退屈しないし、殺陣など見どころもあってテキストも絵もクォリティが低いわけではない。


 第1期は、数々の猟奇事件はシビュラシステムが普及したあとのことなんで、あんな残酷な事件が起こるのは監視社会が人間をおかしくしたからという前提がある。監視側は当然にして権力側なのでその歪さも描かれていたし、システムの隙間を通り抜けて好き放題するのも出てくるやろ当然というのも描かれていた。キャラも監視側の人間ではあるが、まかり間違えばその権力側からスッ転げるし、その点では監視対象と何ら変わりない。それら諸々の描写を通じて監視社会クソじゃね?というメッセージだったと思ってた。個人がシステムの矛盾に気づいて真実に達し、それを監視社会が脅威と判断すれば権力側が取り込みにかかるってのもまぁ自然なことで、もちろんそこで取り込まれるのは倫理的に間違いではあるのだが、では、実際権力側に対抗できる力もなく、仮にシステムを壊せるとしてもその代替物を全国民に提供できるわけではないし、そもそも理解者がほぼ皆無な状況で、権力に取り込まれるという判断をしてもそれは個人の選択として仕方なくね?というのはあるのであって、だからそんな羽目にならないよう常に監視社会にならないよう権力を抑制し続ける必要があるよねという主張になる。なんというか自分が維吾爾に旅行したのも、もう約10年も前になるのだが、街中監視カメラだらけという前知識をもって行ってみたら本当だったよという驚きもあったし、実際自動小銃を持った小隊を数回見かけもした。なるほど中国監視社会になりつつあるなという確認はできた。中国がそれだけ監視を強化したのもそこが紛争地域だからなんだろうって認識ではあったが、さて、日本に帰国してみると、都市部は中国に負けず劣らず監視カメラだらけだったのに驚いた記憶がある。なので、おそらく虚淵も日本も監視社会の方向に進んでいるとの認識があって、それに対する危機感を第1期の中にビルトインしていたと思っている。


 で、この第3期だが、ヘンな話、監視社会化する日本に対する危機感はほとんど感じられない。なんつーか、マーケティング重視というか、もう映画化されるまでの人気になり、ウケた層がどうも大きなおねえさんであったらしく、この作品もメインキャラ二人のカップリングをみるにつけターゲット層モロ女というのは誰も疑いようのないことだと思う。で、その二人が正義のヒーローであるために、監視社会を守る存在なんだからその根本であるシビュラシステムも善側でしょという前提で、個人的にはなんか萎える~といった感じ。二人の上司である霜月も、なんのかんのいって現実のクソさと戦う、二人に理解ある保護者って立場で、え、これ女性の管理職増のためのアファーマティブ・アクションなの?といった忖度ぶりで、まぁメインターゲット層F1だから視聴者と一体感出すために仕方がないよね…といった感じ。もう主人公側のキャラのほとんどが社会を良くするために頑張ってるイイ人って立ち位置で、監視社会に対する疑問も警戒もなくて、権力の狗になってることへの批判がなくてもうね。トラブルシュートの結果、庶民が助かったからめでたしめでたしとなってるケド、結局それは権力の強化にしかなっておらず、全体的に見たら搾取構造が強化されているんだったらなんの意味もないんだがな…と思うのだが、少なくとも今の段階では社会構造の変化に対する危機意識なんてものは感じられない。
 まだ正体がはっきりしてないが、コングレスマンという立ち位置を示して、それがシビュラシステムをハックして不当な利益を得てる(おそらく悪徳政治屋経団連、そしてその位置を狙う若きアントレプレナーあたり?)層を登場させているが、これもやっぱりシビュラシステムは正しいのであって、コングレスマンはシステムに寄生する穀潰しみたいな印象を受ける。
 なので、今までの流れだと、第1期で感じられた、社会に個人が圧殺されるという空恐ろしさというのはもうすっかり影を潜め、なんか成り上がるのが目的のちっぽけで欲深な現代貴族が社会の富に群がってる中、昔の刑事ドラマ風に見目麗しいキャラたちが頑張ってくれてますよ~という小さなスケールのものになっちまってんじゃネェの?っていうイメージ。


 まぁ今回までの都知事選エピソードで、AI云々はともかく、特定権力層の利益のためにアイドル担ぎ上げて印象操作とか、社会批判要素がないわけじゃないし、そのへんメッセージ性が過度に歪んでるってこともないんだけど、設定や話運びがこの作品に比べてもう足元にも全然及ばない超余裕のほうが個人的にはよっぽどワクワクして視聴しているんで、批判というより世の中不思議なことがあるもんだなぁというのをしみじみ思い知らされているというか。


 いや、繰り返すけど、全8話予定であと3話もあるし、前編中編終わって、どんでん返し確定の残り後編がフルに残されている段階なんで、本当の評価はこれからってところ。あと、別にアニメ制作側としては社会に対して警告を発することが目的ではないし別にそうでなくて全然構わないんで、これでカネ儲けができればオッケー、それでいいんじゃねとは思う。あんまこの作品の人気に関して追っかけてないんだけど、そこそこ人気出てるのかな~?。