霊剣山 星屑たちの宴 第3話

 主人公と三バカの絡みを強調しているのはなぜ?。
 桃源郷の試練完結編。今回自分的にツボだったのは、物々交換で平和にやっていけている社会では貨幣は必要ないというメッセーヂ。主人公に貨幣入手ミッションを原作者が与えたということには意味があると思わねばなるまい。自分が学生時代に中国に旅行したときに貴州省に立ち寄ったことがあったが、この省は中国でも一番貧しいところで、カネ持ちの代名詞が万元戸(年収一万元、約12万円)の当時、貴州省の平均月収が700円と言われていた。もう2〜30年ほど前の話。ところが実際に現地に滞在してみると、住民の服装が他省よりみすぼらしいってこともないし、売っているものが格段違っているというわけでもなかった。当時の実態を自分が正確に把握しているわけでもないが、よく考えてみれば物々交換で済むのであれば、あくせくして貨幣を稼ぐ必要もなく、そうなると貨幣経済上重要な平均月収などは低くても構わないということになる。もちろん工業製品などが必要であれば現金は必要だが、それが必要ないとなれば、生きていくのに必要な労働をしていればよく、賃労働の重要度は低下する。そうなるとカネの流動性に依存する経済指標は低く算出されるが、だからといって貨幣に依存しない経済活動が低いというわけではないという現象になるわけだ。ところが、そういうところは農業が主産業であることが多いわけで、そこに貨幣経済が導入されるとゞういう現象が起こるかという結果が改革解放後の中国なのであって、さらに言えば別にその結果を見るまでもなく日本でもとっくの昔にそういうのが起こっているわけだ。その結果を踏まえた上で、この作品の、幸せに暮らしている桃源郷の長老に言わせている貨幣経済に対する評価がこうなのだから、この作品が正対している題材の大きさにビックリさせられる。昔、日本でもCというアニメ作品があって、これは記号満載の作品であってどうにもケレン味の突き抜けた作品であったが、問題提起のしやすさその他からすると、案外中国のほうが人口が多い分、テーマ設定をしたときに突き刺さる人口ヴォリュームが日本とは違っているのかもしれんなぁ。
 試練についてはちょっとした捻りで出来は悪くない。桃源郷に入るときに運んできた水の量で待遇が変わっていたから、桃源郷でのミッションも、ポイントを稼げば次の試練で優遇されるというのは予想がつく話。ところが、その桃源郷に運ぶ水の試練を考えると、水を運べだとか、運ぶ水の量が重要というのが第1話を見返してみても見つからないのがちょっとな。これ原作ではそれを主人公が予測する描写があるのだろうか。霊剣山の麓に入った時点で試練が始まっている(上房に入るエピソード)のはあったから、金橋もたゞおかれているだけでなくて、五行変換機から何がミッションなのかを読むのもまた試練ってのはわかるけど、その、何がミッションなのかを読む場面が欲しかったところ。
 しかし、割と他の挑戦者が自分だけ試練をクリアしていっているが、主人公は他の挑戦者にミッションが何かを明らかにして知らせるという役割(いや、知らせるのは他の参加者というより読者・視聴者という側面は大きそうだが)を果たしており、これが人々を導く素質を持っているという提示になっているのが彼の口の悪さとは対照的。大口を叩きはするが、それは単に自分を大きく見せるというのではなく、大きな器を持っているということの裏返しにもなっている。他の参加者が自分のことだけ考えて自己主張が激しかったりするので、日本で称揚される調整型で控えめな人格だと埋もれてしまうんだろうねぇ。
 三バカゞ、プライドもかなぐり捨てゝ教えを乞うのも日本だと違和感があるが、たとえば日本だとツンデレだとか拗ねものは、上位のものが歩み寄ったり調停者がいたりして和解からの協力なんて流れが多い。が、おそらくあちらだと素直に教えを乞う人間が多くて、ツンデレだとか逆切れしていると相手にされないで、結果埋もれてしまうということだろう。学校教育なんかでも日本では怠け者が教員の教え方に文句をつけて、教育委員会やPTAも巻き込んで権力闘争に持ち込んで結果そういう組織の学力が低下しているが、中国だと優秀な生徒がひっきりなしに教員に質問するので、怠け者は放置されて取り残されるし、そのような組織では向学心が増す好循環になるということを良く聞いた。いやまぁ、これもまたかつて日本が通ってきた道。時間がたつと劣化した日本の後追いになる可能性は高い。
 やっぱ日本のテキストに慣れていると違和感もあるけど、その理由を文化の違いとして自分なりに考えてみると結構納得できるのはありがたい。前回の、社会の構成要素は人間であり人間をつなぎ合わせているのは労働であるということや、今回の貨幣経済は本当に必要かということのように、文化の違いを超えたテーマ設定で、個々のエピソードがつまらないわけでもなく、こういう作品から日本人が示唆を受ける部分は大きいと思うんだけど、あんまり人気が出たという話も聞かないしなんかもったいないなぁ。