ラストエグザイル-銀翼のファム- 総感

 なんか微妙だな。とっかゝりはゴンゾ気合の一作と、ラスエグを視聴済みなところからってのがあるが、最初は結構のめり込むぐらい勢いがあったからなぁ。本当にそうなのか迷うところではあるが、自分はこの作品のポイントは世界の構造を示すことにあると思っているので、そういう観点で途中から視聴しているわけなんだが、そうだとしてもなんか中途半端なんだよ。実際初期は何度も見返したぐらいなんだが、終盤になって二度見することがほとんど無くなった。この最終回ですら一回は通して視聴したんだけど、二度目は感想を書くために拾い見だったし。じゃぁ最初の頃が世界の構造というよりは人間ドラマとしてよく出来ていたか?と言われゝば、それもちょっと違う。今ですらベストな1話を挙げよと言われゝば、それはエリダラーダのヴァンシップレースの回だと断言できるんだけど、じゃぁあれが人間ドラマとして最上か?と言われゝばちょっと違うし、あの時示された理念に感動したか?と言われゝば、むしろ青臭いと感じたぐらいだ。でも全体を通して集中させられたというか、今でもあの濃さは素晴らしいと感じさせられる。一体なんだろうな?、この魅力は。
 さて、世界の構造なんだが、結局「この星では全員を養うのに不十分」ってところが示されないために、なんで戦争するの?って部分が弱くなっちゃって、消化不良気味だ。そりゃまぁ、じゃぁ資源が不足しているってのを実際にあの世界観で示す必要があるのか?と言われゝば、それこそ上記最終話感想に書いたとおり、そもそも世界情勢は現代世界を反映したものなんだから、先進国並みの生活を全世界人口70億だかゞ送るために今の資源ではとてもじゃないが不足しているってことを言い換えたものであることは自明だ…という理屈ではある。で、実はファムもミリアもサーラも「戦争イクナイ!」と言ってゝもその視点が皆無なのがなんつーかね。最后軍事技術の平和転用が示唆されていたけど、現代世界ではグローバリズムという経済戦争が世界を苦しめていて、むしろ戦争を超えた商品経済…というより金融資本主義が争いの原因というか争いを拡大しているからな。とにかく喧嘩イクナイとかいって、争いの原因から目を逸らしていてもしょうがないと思うんだよ。深夜アニメが中高生向けであって、あまり大人向けでないという大枠はしょうがないにしても、せめてお子様向けに世界の構造にまで目を向けさせないまでも、争いの原因について考えさせる作りにすべきだと思うんだよね。
 でもまぁそれも言ってしまっているといえばそうなのかもしれないんだよな。最終シーンの第二回グランレースの描写を見ると、結局世界の枠組みを決めるのはいわゆる特権階級の方達であって、市民だの庶民だのゝ意識云々ではないという結論になっている。で、特権階級の方達の描かれ方がもう悪意がまったく無いというものであって、これは現実社会からすると全くありえない。今の日本だけじゃなくて世界の特権階級を見るにつけ、彼らは自分たちの利権を維持するためには庶民を分断統治もするし、国も売る。ウソ詐欺違法行為はなんでもござれで、自分たちの都合の良いように法律も作るし情報操作もする。しかし、そのような姿を作品で描くことによって、社会人ならしっていることをまた目前で繰り返されても気分が悪くなるだけだし、そういう特権階級のやり口に効果的な現実的対応を提示できるわけでもない。そしてなにより特権階級の気分を悪くさせることでなんか得るものがあるわけでもない。こゝはわざと特権階級をありえないほど善人に仕立て上げ、これはおかしいと視聴者に注目させ、はゝぁ、なるほどこれが反語として言いたい「世界がおかしい原因か」と気付かせる手法なんだろうと思ってみる。まぁおかしいワナ。ルスキニアが死に、サドリが死に、リヽアーナが死に、ヴァサントが死にと、なんらかの虐殺に関わったキャラには全員責任を取らせて退場させてる。あのソルーシュだってどうやら重職を辞退している感じに見える。昨今で言えば盗電・オリムパス・民主盗と強引に誰かゝら退場を迫られるのでなければ、その権力の椅子に居座ろうとするものばかり。退場するにしても自分の息のかゝったモノばかり選別して後釜に据え、自分の保身を図る。内部告発者がいれば干し、パワハラの限りを尽くすが、これは途中で寝返ったオーランを重職に据えるという扱いで、やはり世の中を批判していると見ざるをえない。まぁなんだかんだ言って言い尽くせないところはあるが、世界の構造を示すとしても中途半端、その解決法にしても中途半端に見えてしまうが、なかなかまどろっこしい方法で言いたいことを言おうとしているとは思えてしまう。だが、それが視聴者に突き刺さるか?と言われゝば、その威力は無い*1んだろうな。
 というわけで、中盤以降のなんか奥になにか詰まったような物言いのようなもどかしさは感じたし、勢いの減衰にもったいない気がしたが、なんか仕方が無いというか難しさを感じる。たゞ、前半のノリノリ感の良さと、中盤以降衰えたりと言えども、やはり仕事中から視聴を楽しみにしていた作品ってあまり無かったこともあって、自分の中での評価はそんなに悪くない。やはり人に勧めることが出来るかどうかという観点からすると厳しいものはあるが、見る人が見れば感じるであろうレヴェルの低さを耐えてもらってあえておもろ+をつけてみたい。

*1:おもしろいのは結局庶民の個人個人ではいかんともしがたい世界の現状に愛想を尽かしながらも、視聴者に対してはせめて頑張っていこうやというエール、「追い風を祈る」って表現が胸熱だ。あのルスキニアですら言ってるしな。