ジャヒー#18・19

 混乱の原因が唐突に明らかになって、それ自体は収束してしまう話。んー、デウスエクスマキナ?。魔王は魔界を作ってひきこもるというセリフからすると、魔界ができる前のジャヒーその他は何してたんだろ?という感じではあるが、いちおう魔族と人間は対立関係ではなさそうだ…という自分の予測は間違ってなかったっぽい?。魔界が滅ぶことについてそこに何らかの意味があるのかと思えばちょっとなさそうだし、ジャヒーが主人公だということを前提に考えると、突如貧困生活に陥ったそれなりの地位にいた人が、生活を通じて社会性を獲得していくって物語という形をとっていた…と考えてよいのだろうか。次回最終回のようだし、そんなにガラッと大きなテーマが変わるということも考えにくいが…。
 しかしなんだな、この期に及んでメイド部下の魔術が明かされて、そりゃ人間界で成功するはずだわとか、店長の魔法少女もそれはそれでアリだとか、あまり本筋に関係なさそうなところが個人的にはツボだった。

月とライカ#11

 人類初の宇宙飛行が「正式に」成功する話。個人的にはガガーリンの「地球は青かった」をどう取り入れるのか気になっていたのだが、史実に忠実にあろうとするよりは、物語に沿わせる形での導入で、まぁこんなもんだろうなという感じ。あとは恋愛に絡めて物語は進んでいくようだが、個人的にはやはり社会構造に思いが至ってじわじわ来てた。
 なんつーか、ヒロインにフォーカスがあたるシーンでは、能天気に打ち上げ成功を喜ぶ愚かな大衆の姿が描かれて、そこに権力は持ってないが誠実に行動するエリートとの対比がなんとも感慨深かった。主人公や工場長あたりは、祖国が貧しいことを本質的に理解していて、今ある政治のあり方が決して正しいとは思ってはいないのだけども、でもそれは不可抗力というか、仕方がないということも理解してる感じ。帝政期のロシアに最初にもたらされた近代化というのは、資本主義国で発展していった近代化が格差拡大を伴いながらもいちおう国全体が富む方向、つまり庶民にも少なからずの恩恵があったのに対し、ロシアの民衆にとっては搾取だけがもたらされたので、だからこそ革命が起こったという経緯がある。革命政権のやり方は強権的だと思っていても、革命が起きなければ庶民は農奴に留め置かれていた可能性が高いし、ならば大祖国戦争も敗戦していたであろうし、宇宙開発なんてできていたはずがないというのがわかっているから、政府に反抗的な態度を取らないし、模範たるべく自制的に行動してるという風になっている。当然宇宙開発に対して莫大な投資、そしてそのコストは庶民が負担しているということもわかっているし、そのおかげで宇宙開発に携われ、実際に宇宙飛行士としての訓練もやれる。今回犠牲というワードが取り上げられていたが、宇宙開発に多大な犠牲が払われているから、自分もその犠牲の一部になることも厭わないし、とうぜん一番の犠牲になっている人への敬意も忘れないわけだ。大衆はその辺の構造がわかってないから、単に打ち上げ成功に能天気に喜ぶし、主人公の同期の訓練生も、いちおうエリートではあるがなにぶん年端もいかない若者なのであって、そのわかってない大衆の側。で、彼らも「わかってる」側の若者である主人公にだんだん教化されて調伏されていくという展開になっている。
 しかしまぁ、ここに至って割と全体的構造がスッキリ見えてきたというか、なんでソ連モノなのかと思ったら、よくよく考えたら日本は割とロシアと親和性の高い歴史的経緯を辿っていたよな…と思い至った。特権階級が強固な搾取構造を敷き、そのおかげで国際的には強国化したが、国民は窮乏、なんらかのきっかけで特権階級が弾かれたら、それを機に国民が豊かになるという経緯を辿ってきた。ソ連の場合はロシア革命で特権階級が排除されたが、日本の場合先の大戦で特権構造は維持されたものの、特権階級は発言力を削がれたというところ。ソ連は計画経済で経済的に豊かになったが、日本も高度経済成長期を経て、明治以来初めて近代化による富が国民にももたらされたという形になってる。今の人には理解しづらいと思うのだが、高度経済成長期の護送船団方式だとかいわば統制経済のやり方というのは、アレ、ソ連の計画経済をモデルにしてるわけで、別に日本がケインズ経済を実行したから…というのは事実誤認。だからこそ’80年代に、「世界で一番社会主義が成功した国、それは日本」と世界で認識されていたわけで、それがバブル崩壊後、特に小鼠以降戦前の搾取資本主義に舵を切って、今その限りを尽くしたアベ政治によって日本が経済的に転落したのはもう「歴史は繰り返す、最初は悲劇として、二度目は喜劇として」としか言いようがないのだが、なるほど搾取政治の帰結を見たこの時期にソ連ネタを被せてきたのにはそれなりに意図があってのことなんだなと気づいた次第。