オーフェン#10

 うーん、やっぱしみじみ考えさせられる。オーフェンがチャイルドマンにはかなわないと何度も言ってるの、これは自分の世代の感覚に近い。確かに世の中技術が進歩して、それを扱う人間もさぞかし進歩したんだろうと思いがちなんだが、なんというか、それはやっぱり身に余る権力を手にした連中の思い上がりなんだろうなという。まぁ自分なんかも歌が流行ってからかなり経ってからの世代ではあるんだが、なんのかんの言って戦争を知らない世代なわけで、戦争世代は確かに自分らなんかよりよっぽど恵まれた生活を送ってこなかったんだろうけど、ことによっては先の大戦の、それはそれは理不尽なことを問答無用で押し付けられるというとてつもないビハインドを背負いながら、そうであっても日本を復興してきたわけであって、なにもかにも揃った段階から試行錯誤ができた自分らなんかより、環境を整えることから始めるしかなく、それを積み重ねて、そりゃ見栄えのするようなものではなかったかもしれないが、着実に実績を上げてきたその苦労は想像するに余りあるというもの。
 これがなんで現代との対比になるかというと、今、まさに氷河期世代が40代で切り捨てられようとしている段階で、では若者がやれGAFAだとかに就職してブイブイいわせて華やかな出世街道を歩んでいるように見え、しかも連中が何を言ってるかというと、氷河期世代はスキルを磨くために勉強をしてこなかったから切り捨てられるのは自業自得などと言ってるその態度なんだよな。自分なんかはほんのちょっと上の世代が、手作りマイコンなどといって、ICを組み合わせた本体に、7セグメント二桁ディスプレイで、機械語を習得した上でハンドアセンブルしてトグルスイッチでメモリに書き込んでいた時代を知ってるから、ただ単にちょっとばかし便利なことを実現するためにスパゲッティコードだらけのプログラムで荒稼ぎしてるGAFAの連中とか、本当に偉いのかねぇと思ってたりする。なんかWindows95を開発したという日本人のことを読んだことがあったが、あれ、バグだらけの欠陥品でもとりあえず世に出して荒稼ぎするってだけの話だから、商品開発ってリリースする前には耐久試験だとか繰り返して信頼性を確保してから発売するのが当たり前と思ってた自分にとってはたまげたし、その話を聞いたときにはとんでもないと思ったものだ。
 これは別にIT業界だけでなくって、バブル辺りからもとにかく商品サイクルを短くして、特に必要もない機能を付け足しただけの耐久性のない新商品を宣伝で押し売りして、そのたびに消費者から搾取を繰り返してきた製造業界なんかにもあてはまり、結局そのようなイナゴ商売を続けた結果が日本の製造の凋落なのであって、それは例えば昔の日本の製造業が商品の信頼性を高める形で発展してきたのを見てきた層にとっては、なんとも目を覆わんばかりの光景である。
 で、難しいのはそういう精神性は別に連続しているわけでなく、ところどころで逆転しているように見受けられるところ。昔になればなるほど堅実な仕事っぷりだったのかといえばそんなことはない。昔ちょっと上の先輩に聞いたのだが、日本だと大体、日本を立て直す世代と食い散らかす世代が順繰りに交代してきたらしく、まぁ上述の話で言えば、先の大戦時、理不尽を押し付けられた層もいれば、押し付けていた層もいるわけであって、そういうものの輪廻で日本は動いてきたらしい。まぁなるほど、日本を立て直してきた層がいなくなって、今確かに日本を食いつぶすだけの層がいると思えば納得もできる話で、今日本はつらい時期にあるんだなという。
 なので、そういう日本を食い散らかす層が凋落させてきたという前提で、例えばチャイルドマンが見込みがある人間としてオーフェンを選び、徹底的な精神制御の訓練を課してきたというのも、その意図は明らか。ただスキルだけが卓越していて目先の成果だけを追い求めてきた結果が今の日本の有様なのであって、というか、ヘンな話そのスキル自体も大したことはなくって、日本を凋落させてきたのはむしろデタラメなやり方なのであって、そのへんの危機感がこのずっと昔の作品を再アニメ化に走らせたと思うのも考えすぎだろうか?。原作の初出はバブルが崩壊して数年経った後で、あのとき企業や政府はいろいろなごまかしをやってた時期。当時の世の中に対してということではないが、オーフェンは世の中のあり方に疑問を感じてる側だし、アザリーは過去の亡霊に取り憑かれている側。オーフェンは隠遁して潜んでいたわけで世の中に影響力を行使していないし、アザリーは既に長老を殺して(世の中のシステムを壊して)裏で権力を行使している側。こういう状態が続けばどうなるかが、今作品世界で世の中の危機として描写されてるわけだが、原作が世に出て四半世紀25年以上経って、まさに日本がその通りになっているのをみると、あーあ、いわんこっちゃないといった感じではある。