弾正の鷹 (祥伝社文庫)、読了。

 え゛〜?って感じだ。なんと買った4冊のうちこれが一番楽しめた。なんだそれ。
 本作は1999〜2001年にかけて発表された短編集。既読の3冊よりも前の作品。短編だから展開が早くて飽きなかったのかもしれないし、そこらへん何が他の3冊より良かったのか自分でも良くわからない。たゞ、キャラが説教くさくないというのはあるかな。むしろ己の本能に忠実に生きているって描写だ。あとがきに笹沢佐保が「劇画調」と評してあって、これはなるほどゝ感じた。なんとなく雰囲気がゴルゴ13に似ているといわれたらそうかもしれないとは思う。但し、ゴルゴは依頼はしくじらないが、これはことごとく失敗(ネタばれかもしれないが、信長は本能寺で死ぬことがわかっているのでさすがにネタばれの範疇には入らないだろう)するので、へたれゴルゴといったところか。
 戯言ついでに言わせてもらうのだが、冒頭の作品などはラノベで言えば「死亡フラグ」を丹念に描いただけとまとめてしまうことができる。いや、この短編集の作品のほとんどがそうなのかも。なんつーか、自分が小学生の頃に読んだ小僧の神様のような小市民の悲哀みたいなものってのが、現代ではラノベで一言で済ませてしまわれるという社会構造になってしまっているというのが恐ろしい。いや、昔だって小市民的生活がそれほど省みられていたわけでもないんだけど、市民の視点が既にそういうのを一言で表現してしまうという精神構造がね〜。
 だってね、いくら庶民が己のことをそう俯瞰しても、決して庶民という立場からレヴェルアップできるわけでもないんだよね。そのへんまだ文学が形だけでもありがたがられていた時代だと、今の生活をそれはそれで慈しんでいこうや的なメッセージが生きていたんだろうなと思わされる。なんか「所詮庶民が自分のことを中流と勘違いしている」とうそぶいたところで、特権階級が庶民の懐に手を突っ込んで我々の生活レヴェルを引き下げようとするのに対して何ら有効な手になったりもしない。そこらへん山本兼一をして登場人物に治世を説かせるに至ったと見るべきなんだろうケド、おそらくそれは当の特権階級にも届かないし、庶民である自分にも空々しく聞こえてしまったのかな。直木賞受賞作品である利休にたずねよも読んでみたい気がするが、既読の城・鷹・鉄砲の作品の延長線上にあるような気がするので、あまり自分で買って荷物を増やしたいというほどの気力が湧かない。ヘンな話、外れのラノベだとこうやって感想すら書かないで打ち捨てるってことになるんだけどな。ちょっと気負って小説を取り寄せてみたけど、なんか小説選びって難しい。