雷神の筒 (集英社文庫)、読了。

 うーん、困った。扱っている素材に興味があって、その部分はわりとよくまとまってはいるんだけど、自分的には前に読んだ安土城と鷹のほうがよかったかな。天下国家を論じる割に下品な感じで、いやまぁ下品なのは戸梶圭太はむしろ味ぐらいにしか感じていないので、組み合わせ方が自分には合わなかったというしかない。主人公は実在の人物らしいが、彼が仕えた織田信長のクロニクルからすると桶狭間の合戦の前に記述が途絶えているらしいので、ほとんどがフィクション。織田信長が行ったとされる楽市楽座だとか、その他諸々の業績はフィクションとしてこの小説の主人公の献策によるものだという具合になっているんだけど、それこそ御都合主義が鼻についてしまう。織田信長に疎まれる描写が多くて、このブラック企業が一般化した現代においては、こき使われるサラリーマンの視点ではあるのだが、なんかちょっと世の中こんなものさというにはちょっと後味が悪かった。
 4冊山本兼一の本を買ったが、そのうち読んだ3冊について、もともとは鉄砲の背景に興味があって、この本自体が興味の対象だったのだけども、あとの城や鷹はあとづけで購入したのにそのあとのほうが面白かったとはちょっとした誤算だ。自分としては火薬に必要な硝石が日本で生産されるようになっていったことは既知だったので、もうちょっと深く掘り下げて欲しかった。もちろん自分が知らなかったこともあったのだが、先ほど述べたとおり噛み合わせが良くないと感じた。自分的に収穫だったのは種子島が貿易の中継点として当時それなりに盛況だったという描写。今までは鉄砲が伝来したという、それ以外に特徴のない辺境の地ぐらいにしか思っていなかったので、ヘンな話、旅行にでも行ってみたいという誘惑に駆られる。
 読んでいる最中、気になったのはラノベとの比較。密林でのレヴューはこの小説が読みやすいと書いてあるのが大半だったのだが、うーん、なんていうんだろ?、ラノベのほうがサクサク読める感じで、これはたしかに読み難くはないんだけど、かなり読み飛ばしているつもりなのにねっとり絡みつく感じがする。一巻が400頁ほどあるので、どうしても「まだ先がある」というのが軽快感を損なっているんだろうけど、読みやすいというのは自分には当てはまらなかった。で、ラノベのほうが扱っている内容が幼稚なはずなのに、なんでかその幼稚さに感情が振り回されてしまっているように思える。不思議なんだけど、次山本兼一の本を買うか?と言われたら、自分なら戸梶とか阿智を買うだろうなと思ってしまう。いやぁ、正直あの時代の鉄砲事情だとか交易の様子だったら、小説仕立てにしなくとも、それこそ100ページぐらいでそれなりに面白くかけそうだと思うんだが、それじゃぁダメ?。