咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A 第8話

 それ、付け焼刃ジャン。
 うーん、阿知賀女子の実力って全国レヴェルじゃなかったんだねと思いながら、昔のアニメ…というかスポ根モノを思い出してた。アタックNo.1なんかゞいゝ例だと思うんだが、昔のって主人公の潜在的能力の高さが実戦経験を経て開花して、場当たり的対応で困難を乗り越えてしまうってパターンが結構多かったような気がする。本作の阿知賀女子もそのタイプって感じだ。たゞ、あんまり阿知賀女子の各メムバーがチート的に潜在能力が高いってわけでもなく、天才というよりは努力を要する秀才ってポジションではある。
 まぁスポーツの世界も、「勝つための方法論が確立していない」牧歌的な時代だと、アタックNo.1のようなこともあり得るんだが、もうどのスポーツも国家レヴェルで開発し尽くされ、それこそ素材選びから効率的なトレーニング法、コーチングテクニック、それに適した練習環境に、それを可能にする資金力、対戦相手に関する膨大なデータ収集にコンピュータによる解析や統計の利用など、もう個人の努力だけでなんとかなるって領域をすっ飛んでしまっているような気がする。将棋の世界だって、もう若くして奨励会かなんかに入っていて、何歳までにどのポジションに達していないといけないとか、プロの世界はもうタイムスケジュールから外れてしまうと土俵にすら上がれない世界なんだろ。で、この作品にしたって咲は幼少からプロの母と才能ある姉らと家族麻雀で鍛えられていたという設定だし、和だって確率を重んじるデジタル麻雀を小さい頃から心がけているわけで、そのへんちゃんと時代を映しているんだよな。千里山女子だって牌譜をしっかり解析しているようだし。
 で、阿知賀編ってのは主人公が決意して努力勝利特訓を繰り返して成り上がっていくというスポ根スタイルをとりながらも、もうそういうのが通用しづらい世の中になっているんだよってのはちゃんと込められていて、そのへん感心した。いや、例えば松実姉妹が自分の必殺技にこだわって全国レヴェルでは通用しないとか、じゃぁその弱点を克服するために今回特訓するとか、で、次回はきっと乗り越えた姿が見えるんだろうなとか、モロ大枠では古いスポ根スタイルなんだが、じゃぁ今回の特訓で彼女達が準決で他校を凌駕するほどの実力をつけたという描写ではなさそうなんだよな。あくまで実力は実力で、恐らく今回の練習試合では弱点を克服したゞけであって、大幅なリストラクチャリングがされたわけではないような、そういう設定にしてあると思う。
 難しいところで、話をどう持って行くかというところから考えてみると、恐らく本筋の咲と和の構成は、咲は姉と麻雀で語り合うというのが一つあって、じゃぁ和はその添え物か?となるところを、彼女の転校属性を生かして、和も咲と並び立つように、全国で戦うための動機付け*1のためにこのスピンアウトものが出てきたわけだ。だとすると、ブロックが違うために*2白糸台とあたらなきゃならないし、でも白糸台に勝つわけにもいかんしでの2校勝ち抜けというシステムにしたんだろうし、そうなると準決での2位を「白糸台に勝てなかったがお情けで」というのではなく、「厳しい状況だがそういう状態を乗り越えて決勝に進んだ」ことを示すためにライヴァル校として千里山女子が配置されているわけだ。いわば結論…というよりはある舞台を用意したいがためにそれから逆算してこういう配置になっているってところか。いや、最終的に阿知賀女子が決勝に進めなくても構わないんだけどな。
 そういう作り物感をどう考えるかってトコなんだけど、もともと本筋があってのスピンアウトだから、かなり制約もあってしんどいだろう。本筋だって咲が麻雀部に入部しなかったら部長も副部長も達観といえばそうなんだけど枯れた人たちだし、和も心に火が点くこともなかったろうから、やっぱり制約の多い話ではあるんだよね。和だけは個人戦に出てた可能性はあるんだけど、咲がいなければ才能を燻らせていたゞけだろうし、そうなると阿知賀が全国大会をめざしていても和が最初っから出てなかったら優勝する動機も薄れてしまうで、総倒れの状態に…というよりそもそもお話にならないってことになる。
 まぁ本筋はどっちかというと後ろ向き的な感じがするんで、いや、失われた20年といわれるこの世の中を切り開いていくためのプラス思考寄りの話が欲しかったってとこなんだろうけど、どうしても窮屈さを感じざるをえないねぇ。うまく辻褄合わせはしてきているんだけど、自分が期待していた組織論的主張も今ひとつキレが欲しいところだし、他チームとの共存ってところも深みが欲しいところ。あんま失点って感じはしないんだけど、なんか一杯一杯って感じがして、初期の頃の勢いがしぼんでしまったようではある。
 あ、後、練習試合に顧問に何の連絡も無く飛び出していったクセに、帰ってきたら気にかけてもらえなくてショボンヌの灼には参った。主役級のキャラは、穏乃・憧、松実姉妹、灼・顧問のカップリングがなされているので、こゝは確かに憧れの顧問が決して灼の思う姿ではないというもどかしさってのは二人の関係性からすると適切な描写なんだが、この期に及んで…って印象は拭えなかった。無くてもいゝジャンかとも思わなくも無いんだけど、じっくり描写すると味わい深い仕込にはなるんだよなと。尺が足りないのが全部悪いんや!ってところか。

*1:いや、和自身は穏乃たちと戦いたいがために全国に行きたいという動機は全然無いわけなんだが…いわば視聴者に対する理屈付けという意味において

*2:決勝で初めて宮永姉妹を対面させるために、白糸台と清澄を準決で当たらせるわけにはいかんわけで、でも決勝戦で白糸台と清澄とおそらく阿知賀女子を組ませたいんだろうなと思われる。