っつーわけで、おカタい本の話題でも。

 読んだのは正義の喪失―反時代的考察 (PHP文庫)。かなり面白かった。密林のレヴューには正義の項とフェミニズムの項を絶賛していたが、自分にとってはボーダーレス・エコノミーの項が格段仁面白かった。自由貿易について、たぶん資本主義社会への批判だと思うのだが、

 すなはち、その社会では、その地で使ひきれないほどの余分な生産物を毎年勝手に作り出し、その住民達は、つねに、その地では手に入らないもろもろの幻の品に対して無限の欲求不満に陥つてをり、しかも、もあし買手がつくとあらば、その毎年作り出す余分の生産物を、更に沢山、余分に作り出さうとする−これは、さうした、言はば無限の欲望にギラギラと脂ぎつた社会である。そして、彼の言ふ、外国貿易の一般的利益といふものは、さうした特殊な社会を前提として、はじめてなり立つものなのである。
(彼=アダム・スミス

 いや、なんつーか、日本の経団連だとか、TPP賛成だとか言ってるその根底にはこれがあるんだろうなと思うとぞっとするな。自分なんてのは資本主義は要するに欲望刺激社会なんだろうなとぼんやり思っていたが、たしかにこういうことなんだろう。この原稿は平成2年初出らしく、20年前のことだ。今グローバル経済といってるものが当時はボーダーレス・エコノミーと言われていたというのがなんか新鮮だ。フェミニズム礼讃も結局は共同体の破壊になるだろうと言っていて、自分は男女雇用機会均等法の成立時には無邪気にいゝことだろうと思っていたゞけに、やはり当時から危険視している人もいたんだなと考えると感慨が深い。
 たゞ、この人、天皇制(国体護持)への素直な回帰なんてのを言っていて目を疑う。民主主義に幻滅するのはわかるんだが、その代替物として日本人の支柱として天皇制はねぇだろとは思うのだ。まぁ民主主義ってのが結局のところ独裁政権でしかない自民盗に悪用し続けられ、また選挙で支持された民主党が、民主主義の原則を形だけでも守らないのを見ちゃうと、さすがに民主主義はダメだとわかるんだが、かといって天皇制もダメだろ。天皇自身に悪意がなくても天皇制自体が差別の根源だし、江戸時代はホントにお飾りだったにしても、明治以降は悪用されまくりだったじゃねぇかと思うのだ。第3の道があるのかどうかはアレだが、模索ぐらいはしないとな。
 いや、支離滅裂な文になっているが、ボーダーレス・エコノミーの項は、資本主義の根源を大航海時代にまで遡ってアダムスミスやマルクスにも深く言及していて、いろいろ考えさせられる面が多かった。