スターシップ・オペレーターズ〈3〉 (電撃文庫)

 えーっと、今回は補給・バンドライヴ・クーデター・危機脱出・同盟軍1隻とあわせて2隻が敵4隻と対戦するお話。補給のセイ・衛生兵のミナセ・第3艦橋女子クルーの担当回といったところか。護衛艦アマテラスは惑星シュウを訪れるのだが、このシュウってのが中国というか香港をモデルとした国家で、アマテラスの支持者が多いという設定。アマテラスの敵役が王国(惑星国家同盟)で、相手をテロ支援国家と名指しゝている様子を見ると、どうも合衆国をモデルとしているようだが、内部が君主制に近いことや艦長たちの権力闘争がけっこう剥き出しになっているところはプラグマティックな軍システムを持つ合衆国軍と比較すると、やはり架空の存在になっている。
 この第3巻は発行が2002年6月になっており、そういやまだまだ某巨大掲示板は黎明期ぐらいの頃じゃないかと思うのだが、日本の状況としては子鼠登場前夜、そして日本企業の中国進出が佳境を迎えた頃であり、そういやまだ子鼠登場以降の政治屋達の媚米ぶりはそんなにはなく、中国との経済交流がまだ前向きに感じられていたころなんかなと思い出してみる。この作品では日本の漫画文化が世界を席巻したという設定になっており、ジャパニメーションの現況をみると爆発的にとはいわないまでも海外に対する浸透は静かに進んでいる感じがするな。
 話としては今回シュウとアマテラスの外交あたりがひとつのテーマだったんかなと思われるが、巻全体を見渡すと雑多な感じがする。政治描写では「スジを通す」というのが1つのテーマなんかなと感じたが力点が過剰におかれているわけでもない。人間ドラマも描かれてはいるが、ラノベらしいさっぱりぶり。こゝらへんは舞台の多さを考えると適切といえるのだろう。メディア関連も構築としては無難だろう。多分合衆国の多チャンネル化を想定して描かれているので、そうそう無理もできないだろうし。で、日本だと自分がCATVで多数のチャンネルをチェックしたりはしないのでどれだけ把握できているか自信がないが、地上波の民放チャンネルがそうそう増えてもいないので、作品中のメディアの描かれ方はあまり真には迫ってこない。それとも現行法制上の規制が外れゝば、日本で多チャンネル化が進行するのだろうか?。
 さて、若者たちの未来という観点だが、冒頭からしてセイの運用でアマテラス乗員が銀河ネットとの契約を無事完了できれば、あと一生の生活に困らない財産を用意できているという設定になっていた。なんか肩の力が抜けたというか複雑な心境。この作品が厳しい時代を乗り切っていく若者に対する応援歌的な要素を強く持っていると思っているので、仮に就職できたとしてもまた転職を繰返さなければ貧乏人は食っていけないという現代性も取り込んでいるのかと思っていただけに拍子抜けだ。でもこれで「生き残ること」という一点にミッションが絞り込まれたわけで、スッキリしたとはいえる。自分はこの物語のミッションが、アマテラス乗員の全員の悲願になっているわけではないにせよ、「アマテラスの故郷である、惑星キビの独立」だと思っていたので、それが「アマテラス乗員が銀河ネットとの契約を完遂して生き残ること」になったことで、割と問題が身近に感じられるようになったとは思う。
 さて、一対一の対戦が続いていたのが、今度はチームワーク戦になり、勝敗の結果は次巻に持ち越し。単純な戦術の対決というよりは組織力の勝負になっている所は自分的には面白く感じた。SF的ガジェットの描写よりは相手の意図の読みあいあたりはそれなりに読みやすくなっているんではないか。で、戦闘の推移はさすがに読み疲れる。こゝらへんはさすがにアニメのほうに軍配が上がるだろう。
 戦闘のモデルは、やはりドイツ海軍あたりの戦記モノを参考にしてるんだろうか?。軽巡エムデンとかシュペー・ビスマルクバレンツ海々戦だのチャンネルダッシュだのといったやつの。エムデン号最後の航海は再読したが、あとの開戦は20代までのアホな頭で読んでいただけなんで、今読み返すとまた感慨深いものがあるんだろうなと思ってみる。