Hidden Value シスコシステムズ

 うーん、コヽも読み直すとそんなに魅力的に感じない企業だった。ネットワーク機器に関する企業なんだけど、企業の運営方針がとにかく他企業の買収に特化しているのだ。技術力があるかといわれゝば、どうなんだろう?。とにかくこの本の出版が10年前なので、今も買収で事業の拡大をやっているのかどうかゞよくわからない。が、自前の開発陣を作ってそこで自社製品を作るというよりは、他所の開発陣を取り込んじゃえというのが基本方針らしい。まぁ今時半導体製品なんてCPUですらファブレスだったりするわけで、こういうやり方もアリの業界なんだろう。で、買収先の開発チームもシスコの一員となれば、それがすなわちシスコの技術開発陣となるということだろうか。
 コンピュータ機器の製品サイクルが短いため、とにかく有望な開発を行っている会社を早く見つけ、手早く買収する*1のが流れになる。で、買収しても人材が居付かなければ買収の意味がなくなるために、待遇を良くするらしい。買収ってのは、相手企業の組織を買うのではなく、相手企業の優秀な人材を買うのだということだ。 だからその人材が流出してしまっては意味がない。他社に優秀な芽が出てくれば、それを摘み取って「刈り取る」だけでなく、自社に取り込むところまでやってしまうという、まさに大人買いをやってのけるわけだ。合衆国らしいやり方といえばそうだといえる。
 買収に関しては、小規模な相手を選ぶ。対等合併だと力関係でこちらのやり方を徹底させられないからだろう。文中でも買収先の企業には「我々のやり方にしたがってもらう」と早々に宣告すると書いてあった。買収作業でグズグズしていたら、そこで開発している製品を市場に投入するのが遅れるから、手早く済ませてしまうというのも信条。
 企業文化がどんなものであるのか、従業員の労働環境がどうなっているのかに関しての記述がないわけでもないのだが、凄く曖昧か、またほんの一例しか紹介されていないので、それを敷衍していゝのか迷う。新しくシスコの一員となった皆様方の喜びの声なんてのが紹介されているのだが、これなんてテレフォンショッピングのそれと変わりがないので信用していゝのかわかんないんだよな。
 まぁシリコンヴァレーという立地がそうさせるのだろうが、日本の中小零細企業のように技術ってのが職人の手作業にまで及ぶという言わば不動産に近いものではなくって、合衆国式に頭脳労働であって移動が容易だってのもあるんだろう。まぁ条件さえよければ、どんな企業だってシスコは大人買いをしちゃうんだろうけど。そしてある程度の規模になり、シェアを維持しているからこそこういうやり方でいゝのかもしれない。市場を独占してしまったら、自分トコで全部開発をやんなくちゃならないだろうから、すべてを刈り取ってしまうのではなく、余裕を残しておく。そしてその残しておいた部分から、優秀な企業が出てきたら、マッチングさえ良ければすぐさま買収するという方法なんだろう。企業が成長しているときには、その成長の勢いで勢力を拡大し、成長しきってしまうのではなく、成長余地を残すという戦略をとっているために、大企業病に陥らずに済んでいるという感じか。なわばりのとり方のバランスが良いと極言してしまっていゝのかな?。で、従業員というか開発チームの処遇は、読んでいる限り抑圧しているとも感じられないが、特別優遇しているという印象は受けず、最初に合意した取り決めさえ守ればあとは生き馬の目を抜く業界に居ることを自覚してやることやんなって感じか。これも合衆国らしいといえばらしい。あとはブラックではないフツーの企業とそう待遇は変わんないんじゃない?とも感じた。本体の資金力が大きいから、ヴェンチャー小企業のまゝでいるより資金繰り、福利厚生、安定性に困ることもないだろうから、開発チームとしては悪くない話ではあるんだろう。

*1:自社の開発チームに対抗製品を作らせるとなると、一から開発する手間がかゝって、時間的に市場投入が遅れる。なら自社の開発チームに投入する資金を買収に使ったほうがいゝジャンってことなのか。