Hidden Value なおも続く

 前回はリーダーの役割について述べてみた。結局稼ぐのは現場なんだから、リーダーは現場のモチベーションを下げるようなことをするなというのが結論だと思う。それこそNUMMIの章で東款・池淵浩介が述べたことに尽きていると思う。
 さて、経営者が理念を立て、従業員に裁量を渡し、その従業員がその恩恵に応えたとして、果たして本当に企業はやっていけるんだろうか?。もちろん運の要素が大きいとは思う。で、振り返ってみると、本書の企業は必ずしも最先端の技術で食っているわけではない。昨今巷で喧しい、「イノベーションが必要」というのとは一線を画している。枯れた技術でも十分に収益を上げ、それが継続している。今回はむしろ勘違いの方が大きいとは思うが、収益を何故上げることができているのかをうだうだ考えてみたい。
 同じ航空会社なのに、なぜ日本航空は破綻し、サウスウエスト航空はまだ事業を拡大しつづけていけるのか、もっといえば、同じような低価格志向のスカイマークはなぜ浮かび上がれないのかにつながる。まぁさすがに、月60万JPYとも言われる日航の年金は誰から見てもアホだろと思うしかないワケだが、まぁ創業40年ほどのサウスウエスト航空はその負担はないわな。で、スカイマークは既存航空会社保護のため、政治家・役人から煮え湯を飲まされているという面もあって、単純に比較は出来ない。が、やはりここは効率の違いがモノをいっているのだと思う。サウスウエスト航空は基本稼働率を最大にするように仕事が組み立てられている。同じ航空会社という形態なんだから、やるべき業務は変わりがない。で、サウスウエスト航空はそのやるべき仕事をできるだけ詰めるということをしているのだと思う。無駄を無くすということか。それを考えると、確かに退職者の年金原資を稼ぐために仕事をさせられているような日航の社員ってのは哀れというしかない。サーヴィス提供という点では別に日航の社員がサウスウエスト航空より劣っているとも思えないんだよな。しかし、両者の仕事の概念、つまり「何のために」「どうやって」稼ぐか?という点を考えると、社員はどちらも優秀なのにやはり日航は無駄が多いとしか考えられない。その他日航は不採算路線を政治の力で維持させられたり、役人の天下りを受け入れさせられて、しかもその天下り役人が利益を己の権力維持という、業務を悪化させるようなものに投入させられるという付帯要素もある。が、これはすべて「無駄」の範疇に収まる。いくら日航が半官半民の企業とはいえ、さすがにやりすぎであり、実はサウスウエスト航空と比較すること自体間違っているのかもしれない。そう考えると、日本の特殊性として片付けるしかないのかな?。スカイマークあたりもその範疇で語ってよいかもしれない。つい最近も経営者が従業員を抑圧するような事件がマスゴミによって報道された。もう語るに落ちた状況ではある。
 本書の企業には合併・併合などで事業を拡大し、収益を上げているところもあった。まさに合衆国ならではといったところか。ヴェンチャー企業が積極的に立ち上がり、もちろんあちらはヴェンチャーに金を出す投資家も結構居るようで、そして買収する企業も開発の手間をかけずにチームを手に入れられるという長所もあって、M&Aは盛んのようだ。日本の事は自分は寡聞にしてよく知らないところがあって申し訳ないのだが、そういうのはゲーム業界ぐらいしか耳にしない。本当のビッグタイトルはDQとかFFのように残るかもしれないが、たとえヒット作を開発したチームを要する企業を大企業が買収したとしても、すり潰して終わるという例が多いように思う。買収されずに頑張っていても、やはり資金繰りに困って消滅するのも多いような気がする。最近の稲船氏のカプコン退社(解雇)の件を見ても、やはり開発人員の肥大化が起こっているようで、せっかくアイデアが良くても効率が悪くてそもそも企画段階でボツというのも多そうである。また大手企業の囲い込みによる閉鎖的な流通機構も原因の一つに上げられるかもしれない。ゲーム業界なんて新規産業であって、それがお互い切磋琢磨し、業界が発展するようなプラットフォームが作られていくのか?と思いきや、結局何が起こったのかというと、旧来の産業によって取り込まれ、発展するどころかうまい汁を吸い尽くされて発展のしようがないところまで追い詰められた感がある。自分が中高生の頃に起こったマイコン三国志、すなわち日電・早川電機・富士通信機の三つ巴でお互いに潰し合いをし、その後DOS/V機にやられて全滅状態なのを髣髴とさせる。なんつーか、あちらは業界が業界として成立しその中での合従連衡が行われるのに対し、こちらでは新規立ち上げが起こっても旧来の利権構造が吸い尽くしてしまうという構造になっているような気がしないでもない。むこうの合併は、競争力を高めるために行われているような印象があり、こちらの合併はむしろ企業として成り立たないほど追いつめられた挙句の果てに行われているような気がする。しかも追いつめるのは競合他社なんだよね。もちろん競争することのすべてが悪いわけじゃないんだけど、なんつーか、戦うべき相手を間違っているとしか言いようがなかったりする。日本の電機産業とかほゞそんな状態じゃないか?。で、まとめると、結局それは企業をまたがる業界として考えると、やはり目標がズれており、投資効率に凄い無駄が生じているとしか言いようが無い。無駄なことに時間とカネを使っているのだ。
 結局無駄を排することができるかに勝負がゝゝっていると言えそうである。で、注意したいのは労働生産性が高いかどうかは別であるということだ。確かに効率を上げれば、単位時間いおける生産量は大きくなり、それはすなわち労働生産性が良いということにはなる。が、前述した通り別にイノベーションが無くても効率を上げて、収益を上げることができるのだ。あちらでは休むときは休むわけであり、日本のようにサビ残が横行して労働生産性を上げよとホザく経営者をみてげんなりするしかない状況ってのはなんて言ったらいいのかね?。
 さて、本書の企業は30年ほどの歴史しかない。これからも安定した経営が維持できるかどうかはわかりにくいところだが、それはまた別の話として考えてみたい。