スターシップ・オペレーターズ〈6〉 (電撃文庫)

 前巻の宿題である分離型双胴船との対決と、惑星キビへの帰還。ん〜、びっくらこいたね。クーデターだよ、クーデター。物語の政治的な部分が今までなんかの踏襲っぽかったので、こういった曲芸をやらかすとは思わなかった。まぁ作者の導きたい結末にするためのご都合主義といえばそうなんだが、いやいやお話ってのはそういうもんだろ。細かなところをツッコむと粗もあるんだろうが、読了直後の現在では純粋に楽しませてもらった感が強い。ワクワク感ふたたび。
 双胴船との戦いでは、なんつーかね、あれだよイヴェントに向けて団結するって雰囲気がよく出てた。学祭のノリだわな。アマテラスが、やがて大企業に成長する中小企業のサクセスストーリーのようになっていて、で、これが作者の構成によると後半戦が始まったこの第6巻でも提示されているのが面白い。まぁアイデアが出ればあとは勢いだけの一発芸ってのは典型的なSFの形ではあるので、そういうフォーマットに自分が慣れているだけなのかもしれないが。
 同盟のクーデター劇もあっさりしてたな。よくよく考えると戦闘艦もしくはその艦長ってのは「軍閥」にあたるんだよね。新しいリーダーの坮頭時に古株をおん出すのは恒例ではあるのだが、重鎮が血迷ったりするのはちょっと作為を感じてしまう。また古参にヘルマンってゲッベルスのような報道官が出てくるのだが、これも新しいリーダーに恫喝されてあっさり辞職してしまう。メディアに姿を現すことがなくなったという記述があるので、辞職後消されたか、それとも辞職後ひっそりと暮らして政治からの一切の関与を絶っただけなのかゞわかんない。物語的には根幹に関わらない部分なので深く入れ込むことをしなかったというだけなんだろうが、身の引き方として潔いのが好印象。
 さて、キビでのクーデターなんだが、アマテラスの乗員であるレンナの父が、真のクーデターを成功させるために、自ら囮としてクーデターの首謀者を騙るというアイデアがなんとも目新しかった。まぁそもそもクーデターが起こるってことが、日本をモデルとしているキビで起こるというのに不自然さを感じないわけでもないんだが、別に日本をモデルとしているとはいってもあくまでモデルに留めているってのが本作のスタンスなので別にリアリティなんかで文句をつけるのは筋違いではある。が、過去を振り返ってみると軍国主義化していく時期の日本のクーデターってのが、あまりにもお粗末だったので、話を盛り上げるために曲芸になっているとはいえ、これはなかなか目を惹く展開だった。こゝらへん、若者の志や自己犠牲が、国家権力によって使い捨てさせられた先の大戦と違って、むしろ国家独立のために活用された*1形になっており、目頭が熱くなる。アラブの自爆テロとも違うし、方向が完璧にズれてしまっているネトウヨとも違う。アマテラスの搭乗員が敬礼をするのにふさわしい最期なのが胸を打つ。
 前巻の感想で、アマテラスには優れた戦術家(もしくは作戦家)が居ても、優れた戦略家は居ないと述べたが、今回で間宮ペアがうまく育っていて、アイデア次第では「さァ面白くなってまいりました」ってとこで筆が止まっているのが惜しい。総選挙の後にアマテラスがキビに所属することになってもならなくても、単なる放浪の身ではなくなったわけで、なんか中盤で喝を入れられた感じだ。作者は全10巻と明言しているらしく、だとすれば構想・構成レヴェルでは結末は決まっているわけで、やはり続きを期待したい。あとがきでは⑦巻があるような口ぶりなんだけど、半年・一年スパンでの刊行がもう5〜6年も経っているわけなんで、続刊はありえないんだけどね〜。

*1:いや無駄ではないが、結果的には同じように命の無駄遣いになってしまうではあるが。