- 短期の問題だけを考えてはいけない:今まで大企業は短期の利益だけ考えて、労働者の賃金を引き下げ、内部留保を確保してきた。いざなぎ越えの景気といわれたのも、ここ2〜3年という、特権階級だけの景気だった。その目先の利益のために金が市場に回らなくなり、全体が冷え込んで空前の恐慌になっている。「経営者保護」の強化は必ずしも日本全体の利益にならない。
- 解雇規制を弱めることは失業率を高める:ゲーム理論で考えると、解雇規制を弱めることは、雇用者のわがまゝ放題を許すことになり、実際にこの恐慌に至り、急激な失業率の上昇を招いた。国際的にも解雇規制と失業率に有意な相関があることは定型的事実である。
- 経営者の過剰保護は生産性を低下させる。:解雇規制を弱めることは失業率を高めるが、経営者は私腹を肥やすことに専念するので、将来の設備投資が行われなくなり、過少投資が生じて生産性が低下する可能性がある。多くの研究では経営者保護規制(EPL)の影響はマイナスである。特にパワハラの頻発する企業では被雇用者の流動性が高まり、熟練労働者が定着しないため、生産性に負の影響をもたらすとしている。
- 過剰な役員報酬は失業率を高める:合衆国のように経営者の報酬が法外に高いと、企業自体を喰い潰すために失業率が高くなる。しかし、役員手当てを無報酬とすると、賄賂などの賃金以外の利権が横行してしまうので、役員報酬を全面的に廃止することは好ましくない。
- 問題は「世代間格差」ではなく「階級闘争」だ:自民党は未だに分割統治で国民同士をいがみ合わせて、特権階級に高みの見物をさせているが、団塊の世代でも勝ち組と負け組の格差は酷いものだ。ジニ係数が小泉路線に代わって急上昇したのは記憶に新しい。不公平なのは特に経団連関連企業が、労働者の賃金を削って役員報酬を倍増させたことだ。本質的な問題は、自民党や経団連が中産階級を負け組に突き落としてワープアを招来させていることであり、世代間格差という古い図式は、この巨大な格差を隠蔽するための目くらましだ。
- 派遣労働や請負契約の規制緩和は失業率を高める:日本で派遣や請負のような変則的な雇用形態が多いのは、リクルートを初めとする派遣業界が自民党に賄賂を贈って雇用の不安定化を行い、中抜きをしてきたおかげだ。実際に非正規雇用を失業と看做すと、日本の失業率は10倍近くにも跳ね上がる。政府は失業率の基準をごまかしてさも日本は失業率が低いように見せかけているが、もうここ10年ほどは失業率が二桁になっているのを捏造している。この数ヶ月で失業率が急激に悪化したのは、それが表面化しただけに過ぎない。
- 労働保蔵を削減する政策は、生産性を引き下げる:解雇する労働者を雇用する企業に政府が補助金を出す「雇用調整助成金」は、小泉政権で廃止の方向が決まり、労働者の非正規雇用が急増した。このような労働保蔵を削減する政策は、短期的には企業の決算を粉飾する役には立つが、長期的には企業の体力を削いで生産性を低下させ、労働需要を低下させる。
- 終身雇用は日本だけの「伝統」ではない:欧米では雇用の流動化は当たり前といった議論があるが、これは歴史的にも誤りである。世界的にも労働人口の大部分が自分のスキルを生かす職業に継続して就いており、日雇い労働といった、スキルがまったく身に付かない労働が一般的になったのは日本でも1960年代以降である。
- 長期雇用には合理性がある:「解雇規制を温存したら、みんなぬるま湯に安住して仕事をしなくなる」という議論があるが、解雇規制を撤廃したら長期雇用が残らないことは、日本の「失われた20年」で証明済みである。経営者にしたってお雇い社長が腰掛程度の在任期間では目先の利益だけを重視して企業を破壊することが知られている。問題は合理的な範囲を超えて不当な解雇を黙認・奨励する立法と司法である。
- 解雇緩和より放漫経営の見直しを:労働市場のミスマッチを解消するためという名目で職業紹介業の規制を緩和したり、企業による職業教育の放棄を促すことは、解雇規制にくらべてマイナスの効果しかなく、中抜きなどが横行して社会不安が増大するので望ましくない。
- 労働生産性の名目で行われる搾取の内容を見直すことが重要だ:ネオリベ的に考えると、労働生産性が低いという名目で、労働者の賃金が引き下げられ続けてきた経緯があるので、長期的な解決法は需要と供給のバランスをとることだ。日本の労働生産性は先進国においても最低レヴェルであるので、特に世襲・コネ重視で指導力・経営力不足の経営層の生産性が顕著に低下しているので、自民党や経団連などの特権階級の首のすげ替えが必要である。
総じていえるのは、雇用の削減を促進する短期的な「雇用緩和」は、生産性を引き下げて恐慌をまねく場合が多いということだ。大企業で成長率がマイナスになっているとき、消費税の増税や法人税の減税ばかり議論するのは、タコが何の生産性も無い頭ばかり大事にして、生産性のある足を喰いつくすようなものだ。一時的に「特権階級が私腹を肥や」しても、労働者の購買力が上がらなければ経済はまわらない。本質的な問題は、特権階級の搾取をやめてバランスの取れた需給関係を構築し、雇用を創出することだ。分配の公平は、この問題と密接に結びついている。
いやぁ、池田信夫って特権階級の回し者?。