ついに竹下派死闘の七十日 (文春文庫)を読了。

 まぁこういう暴露本は得てして眉に唾をつけてかゝらないと酷い目に遭うので、そこらへんの検討から。著者の田粼史郎は時事通信社政治記者で、いろいろいわくつきではあるらしい。
 http://www.joyo-net.com/kako/2007/honbun070321.html

田崎さんはかつて、 現在の民主党代表、 小沢一郎氏のブレーンとされ、後に決別宣言をした。 『経世会 死闘の七十日』 『梶山静六 死に顔に笑みをたたえて』 の著書がある。

 ちなみに、Wikiには記述が無く、はてなにはある。キーワードリンクがあるのだけれど、引用しておこう。

時事通信社勤務。

1950年6月22日、福井県坂井郡三国町(現・坂井市)生れ。

中央大学法学部法律学科を経て、1973年4月、時事通信社入社。経済部、浦和支局を経て79年から政治部。82年4月から田中派を担当。以来、田中派竹下派橋本派を中心に取材。

政治部次長、編集委員などを経て時事通信社解説委員。

 ちなみに、社会経済生産性本部評議員であり、飯島勲とともに自民党清和会宣伝番組Changeの監修もやっている。財団法人社会経済生産性本部のうさんくささは今は置いておくが、なにやら自民党清和会に近い人なのかもしれない。
 まぁ立花隆とか、堀田力など、当時は田中派の金権腐敗政治を糾弾して見せるというポーズが流行だったので、この人もその流行に則った取材を行っていたんだと思う。この本を読んでもこの人が小沢一郎のブレーンというのは読み取れなくて、ひたすら田中派、もしくは田中失脚後の経世会の糾弾を徹底して行っているように見える。
 ロッキード事件が1976年で、入社して間もない頃だろうから、田中角栄との面識はほとんど無いような気はする。流れてくる噂を聞くと、たしかに田中角栄は欲深いのではあるが、ある意味正直なところがあって、惹かれる人がいてもおかしくは無いと思われるが、実権を失った田中角栄とこの人が面識をもつことにそんなにメリットがあるとも思われず、記述にも、会って話をした様子は窺えない。
 読了してしまうと、竹下派以外の派閥、とくに清和会あたりに対する悪口はほとんどなく、現在のポジションから類推すると清和会の御用記者なのかな?と思ったりもするのだが、まぁ結論は出せないだろう。ざっとググった感じだと政治に影響をもつ言論人になりたいっぽいような気がして、もしかすると第二のナベツネを目指しているのかもしれない。竹下派に対する尋常でない憎しみは、それこそこの本を出版するにあたって相当な圧力をかけられたその恨みつらみという気も大いにする。かわいさ余って憎さ百倍って感じか?。
 

 竹下派七奉行(他に小渕恵三梶山静六橋本龍太郎奥田敬和)のうち、文字通り生き残っているのが小沢一郎羽田孜渡部恒三の三名で、全員民主党。自分の狙いは小沢の歴史であって、彼の自民党時代からの無節操さが、あの当時はそれはそれで仕方が無かったことなのか?というのを読み取ろうというもの。結論付けるのは危険だが、まず彼の理想がどのようなものであるかを把握しておらず、かといって理想があった場合にそれはいくら汚くても与党である自民党で泥に塗れるしか達成する手段が無いというのは十分納得できることであって、彼が自分を殺してまで達成したものがあるかどうかが見つかればラッキーといった感じか。
 もしかすると金丸信失脚後経世会のトップとして自民党に君臨できたかもしれないが、彼自身が周囲に振り回され、権力闘争に自ら飛び込んでいかざるを得ない状況に追い込まれていったという風に読めた。田崎の筆の特徴なのか、結構小沢の性格をやんわりと誹謗中傷するような記述で確かに読んでいて小沢が善人だとはあまり思えない。ある程度賢くて勢いはあるが…という評かな。もし彼が自民党の実権を握ることが出来たとして、もともとタカ派であった彼がいち早く自衛隊の軍昇格や、消費税の導入を果たしていたかもしれないというのは恐ろしい考えだが一つの可能性だ。この本では

 竹下内閣の看板政策の一つは、「ふるさと創生」だった。これに関し、小沢は地方制度改革を立案し竹下に提出した。小沢の構想は都道府県制を廃止し、全国を三百の広域市町村圏に組み替え、国と地方の行政分担も大幅に見直そうというものだ。(p201)

 ということも記載してあり、今自民党清和会が粛々と進めている道州制とは違う展開が見られていたかもしれない。まぁ政策立案能力が全く無く、アメリカのお伺いばかり立てている自民党清和会よりは、もうちょっとアメリカと対等に渡り合えた可能性も考えられる。しかし、日米貿易摩擦あたりでアメリカの言うことを聞きそうにない田中派つぶしのために岸時代からの代理人である清和会に資金を流して、アメリカは中曽根あたりから田中派消滅のための最終段階に入っていたのかもしれないな。
 とまぁ、正直今の小沢の狙いや心境を想像する資料になるのかと思ったら、そうはならなかった。が、国民無視の政治は昔から行われていたということがてんこ盛りであったので、そこらへん面白かった。基本は時代が下っていくまゝに進んでいくのだが、時系列が今一わかりにくいほかは、読みやすかった。自民党の泥試合をなじるふりをしながら、実は「そもそも日本の政治体制自体が腐っている」という聞こえよがしな話題を、また機会があったら抜き出して紹介してみたい。