報道機関今昔 竹下派死闘の七十日 (文春文庫)より。

 今や自民党の広報機関と化したマスゴミも、この本を読むと、そういや昔は権力の汚さに切り込む気概がまだあった時代が存在したなぁ(遠い目)という感を新たにする。でもまぁ、そうは言っても昔から権力とマスゴミはなぁなぁだったじゃないかというのが本題。

 「金丸氏側に五億円」と供述
 東京佐川急便の渡辺元社長
 東京地検最高検に報告か
 金丸氏秘書は全面否定

(中略)

 八月二十二日付の朝日新聞朝刊は、一面トップでこう報じた。(中略)八月二十日、たまたま事務所をのぞくと、他の秘書から朝日新聞から電話があったと教えられ、
 「また、あの件か」
 と思った。こういうときは、全面否定していても薄気味悪いものである。朝日がどの程度知っているか、それをどう書こうとしているか。生原は迷いつつ、朝日に電話を入れ、コメントをする見返りに、記事の概要を知らされ金丸にも報告した。
 疑惑が報道される場合、当事者が寝耳に水ということはまずない。報道各社は紙面化するにあたり、当事者の人権を尊重する立場からや、名誉毀損などで訴えられた場合に備えて、コメントを取るからである。このため、当事者も前日か前々日には報道されることを知り、人によっては掲載を見送るよう報道機関に働きかけ、掲載見送りが不可能という事態なら扱いをできるだけ小さくするように頼み込む場合もある。一面トップか社会面で扱われるにとどまるかによって、報道された後の政界や国民の反応は大きく異なるわけで、当事者と報道機関との間では紙面化される前の一、二日が最も緊張するときだ。(p27〜29)

 うーん、なるほど。10年程前に自分の職場の同僚がしょっ引かれることがあったのだが、そのときはどう考えても本人に報道機関からの働きかけがあったとはとても思えなかったがなぁ。政治屋のセンセイならではの特権だと思うがどうか?。

 だが、会合出席者のうち、二人が夜回りの記者らに重要なことを言った。

(中略)

 夜回りの話をすぐに書かないのが政治家と政治記者の暗黙の合意で、永田ムラの掟の一つである。また、奥田が自分の意見を言っているのか、それとも会合での話を紹介しているのかはっきりしなかった。この時、「自民党竹下派幹部」あるいは「有力閣僚」の発言として奥田(敬和)の言葉を報道していれば、当時の動きはもっと分かりやすかったはずだ。(p34〜35)

 まぁ記者もソース源との信頼関係を築けなかったら、情報を貰えないだろうから、ある程度の持ちつ持たれつはあってもいいだろうが、重大な情報を報道しないことによってもたらされる損失はさすがにマスゴミ政治屋も負わなくちゃならないと思うが、責任を取った例は皆無だわな。

 奥田の記者に対する話も、渡辺の加藤に対する話も報道されることはなかった。だが、こうした話は翌日か翌々日には、自民党の主だった人には伝わることになる。渡辺の話は加藤がある竹下議員に語ったことで広まり、奥田の発言は記者を通じて党内に流布された。記者は奥田の話を元に、金丸が辞任する可能性があるかどうか確認作用に入るわけで、こういう重要発言が広がるスピードは早い。だが、「掟」がある以上、報道されることはなく、国民は蚊帳の外に置かれている。(p36)

 政治屋の犯罪報道はしないで、むしろ犯罪者たちのメッセンジャーボーイをやっていたのが当時のマスゴミだ。まだそれでも検察も政治屋の犯罪を検挙もし、それをマスコミも報道しという雰囲気が当時はあったんだよな。それに較べて政府から機密費を恵んでもらって、国民には政治屋の犯罪をほとんど報道しないってのもなんだかねぇ。そういう報道関連での談合構造が国民に知られてか、最近は尻に火がついたように報道をするようになってはいるが、それでも自民党清和会に切り込む報道機関はほとんどありませんなぁ。
 さて、この付近では、政治家関連でもうちょっと面白い記述があったので紹介。

 議員宿舎衆院は赤坂、九段、青山、高輪の四ヶ所、参院は麹町、清水谷、神宮前の三ヶ所あり、マンションのようなものだ。党派に関係なく割り振られ、当選回数や序列によって区別されることもない。都内で土地、住宅を購入し議員宿舎から出ていく人もいるが、それは一握りの人たちに限られる。九段宿舎には、村山、羽田、梶山、渡部らが住み、高輪には奥田のほか、野中広務らがいた。2LDKか3LDKの広さ、家賃は国家公務員宿舎法で定められ、立地条件や経過年数などで差があるが、だいたい五万円以下で収まっている。都心の一等地にあるとはいえ、国会議員が緊急の事態に対処しなければならないことを考えると、ぜいたくという批判は必ずしも当を得たものではない。国会議員なら豪勢な家に住んで、料亭で食事をして、と思われているが、実際の生活は意外につつましやかである。
 議員宿舎はさまざまな党派の議員が住んでいるため、記者が朝回りする前の午前六時頃に秘密の会合が開かれたり、深夜、与野党の議員が会ったり、政治の舞台になることが少なくない。渡部の加藤に対する耳打ちも、同じ議員宿舎に住んでいなかったら行われなかったに違いない。

 これも隔世の感がありますなぁ。今や福田は総理大臣であることに胡座をかいているのか、連日連夜高級料亭での会合にあけくれて、高級ワインに舌鼓を打っているという話だし、そりゃ今の自民党が庶民の生活が分からなくても不思議は無いわな。今の議員は黙っておけばいいような、国民をバカにするようなことをすぐ口にして、それでも平気っていうんだから、何が国民の代表か?と思っちゃうんだけどな。バブルで国民が贅沢を覚えてわがまゝになったことを差し引いたとしても。
 というわけで、これだってほんの20年程前の話で、この十数年でかなり政治屋マスゴミが劣化していることが窺える。団塊でなければ老人もマトモなのかと思いきや、70代だろうとやっぱダメなヤツはダメっぽいしな。やっぱ日本は詰んでいるんだろう。