Hidden Value ちょっと趣向を変えて

 前回は収益の源泉は無駄を排すことではないかと考えてみた。社員が優秀でも経営層が使い道を間違えれたり、運用を間違えれば儲けは吹っ飛ぶということだ。が、無駄を無くすとは結構難しい。そもそも企業のやっている仕事ってのは人間にとって本当に必要なものか?と言われゝば、究極の意味では必要ないもの…即ち無駄…であろうからだ。航空業界・ネットワーク事業・紳士服・ソフトウェア・医療機器流通・電力・自家用車と、あれば便利ではあるが、それが無いと人間生きていけないか?と言われると、日本で言えば150年前には無かったものばかりである。
 さて、本書の企業は30年ほど成長し続けてきたといってよいだろう。が、これらの企業が安定した運営を続けていけるか雑感を述べてみたい。
 自動車産業のことを言えば、合衆国だとフォード・GMなどが思い浮かぶ。戦前の日本ではこれらの企業が製作した自動車の方が国産のより優秀だったと聞く。で、フォードもGMも日本車の攻勢で押され気味であり、GMは先日ついに破綻した。日本だと実はトヨタ・日産あたりは、戦前はGMやフォードが政府により国内から追い払われ、いわば国策企業として発展してきた。自分が高校生の頃は自動車4強と言えばトヨタ・ホンダ・日産・いすゞというイメージだが、いすゞは経営危機によりGMに身売りするぐらいで、政府に助けてもらうということが無かったように思う。日産もルノー傘下だし、よくよく考えてみるとトヨタというのは'80年代ぐらいまでは堅実な商売をしていたというイメージしかなく、まさかその後力を嵩に着て品質を落としたりマスゴミを使ってごまかしたり、政府のカネを使って収益を向上させるというやりたい放題の企業になるとは思ってもみなかった。企業城下町を作ってピラミッド構造の頂点として下請けまで食わすという印象まであったので、まさか下請けイジメまでやることになるとは想像すらつかなかった。
 日本のことをつらつら考えてみると、なんつーか、まずヴェンチャーに対してあまり好意的で無いように思う。大体にして起業の段階で辛い目に遭ったところが多いようで、その後経営が安定するのは何といっても「コネ」がモノをいっているようなイメージが大きい。最近の例でいうとライブドアの堀江が特権階級の牙城である放送業界に手を出して放逐され、楽天の三木谷あたりは今のところ特権階級の癇に障るところがないようである。どちらの企業も社員を酷使することで有名ではあるが、やはりカネの使い道が違うようだ。
 で、財閥に思いを馳せてみると、やはり特権階級との繋がりが目立つ。創業者が起業で苦しんだところでさえ、結局大きくのし上がったのは政治家などゝの繋がりでうまい汁を吸ってきたという印象が強い。戦後大きくなったところでどちらかというと爽やかなイメージがあるホンダにせよ東通工にせよ、まったくの裸一貫というよりは、経営に弾みがつくきっかけはやはりデカイ投資家に気にいられたことによるのだ。以来ホンダは業界トップよりはむしろ業界2位を目指すことで極力出る杭にならないよう細心の注意を払っているようだし、東通工は一時期やりすぎた感はあるが、なんとか業界で配慮をして叩かれすぎないよう注意しているように見える。
 なんにせよ、日本の経済界ってのはやはり特権階級に繋がる系譜があり、そのなかでの序列を重んじて、閨閥を形成しながら徐々に業界内での地盤を固めていくという印象が強い。
 で、合衆国なんだが、これらは兵器産業だの国家支援の元、全世界的戦略で商売をやっているところもあるが、起業の段階ではやはりフロンティアスピリットの国らしく、あまり国家が関与しているようには見えない。いや、あちらはあちらでWASPに繋がる系譜があろうから、日本と同様特権階級につらなるか、気にいられるかで発展するしないが決定するのかもしれないんだが、そこらへん教えてもらいたいぐらいだ。が、公式に耳にする限りでは、大体創業者が叩き上げというイメージが強い。強くなったらカネの力でロビー活動でもなんでもやるんだろうが、本書に登場する企業は一部を除いて裸一貫で立ち上げた…とか、いゝトコヴェンチャーとしていゝ投資家に巡りあったんだろうぐらいしか想像できない。で、別に先行他社に気兼ねするというよりは、急激過ぎる成長で一気に破綻することが無いようには気をつけながら着実に実力をつけているように見える。シスコあたりは買収で伸びた会社で、先週株価が10何%か下がるという暴落を示していたから、やはりブイブイ言わす経営は安定性に難があるんだろう。が、成長期はよっぽどのことが無い限り特権階級に気にいられて大きくなるというよりは、むしろ業界大手の妨害を撥ね退けたり、ニッチを志向することで伸びるといった印象がある。
 で、これからの成長の展望なんだが、日本だとカネをバラ撒くにせよ、特権階級と姻戚関係を結んで保険をかけるにせよ、あまり堅実な商売で収益を維持するというイメージに欠ける。企業が生き残るためには顧客を向くよりは、政財界という殿上人との付き合いを重視しなきゃといった感じである。日本の家電業界も、モノが売れなくなってやったことゝいえば、法律を捻じ曲げて地デジとやらに変え、無理矢理買い換え需要を作り出すことだったりする。技術者の一部はそれでも顧客のほうを向いているのもいるんだろうが、結局勝負を決するのは政財界でのポジションであり、税金からどれだけ うまい汁を吸えるか?という印象が強い。
 で、本書の企業だが、なかなかにして永続は厳しいんじゃねぇの?といった感じではある。たぶんこれらの企業は業界大手とガチで戦えるほどの規模を持っておらず、いや持っていたとして、その企業は業界でのポジションを維持する、即ち純粋な意味での経営で勝負するのではなく、政治力がモノをいってくるのでは?と思うのである。規模が大きくなれば政治力がどうしても必要になり、そうでなければ、本書に書いてある通り、無駄を排して社員の能力を引き出す経営をどれだけ続けられるかが勝負になるだろう。で、それが出来るかどうかは創業者の影響がどの段階まで続くか、また創業者の影響が変わるとして、どれだけ時代の変革に対応できるかにかゝっているような気がする。最善手を打ちつづけたとしても不況を初めとする外部環境の影響をうけてポシゃることも大いにありうるのだ。
 なんつーか、ミもフタもない話だが、企業の平均寿命は30年とも言われているらしい。まさに本書の企業にあてはまる数だ。しかもこれらの企業は上手くいっている稀少な例なのだ。で、それが優秀な創業者が影響を持ちつづける妥当な年数なのも興味深い。経営の無駄を排し続けることができなければ、結局続ければ続けるほどその部分が大きくなって破綻もするし、業界大手になってカネのあるうちに、主にコネなどを形成して保険をかけておくぐらいしか安定した経営を続けられないってのは、いやはや世の中無常よのぅとしかいゝようが無い。いや、それとも社員重視・顧客重視の企業が生き残る風土が全世界的に広がっていくという時代の転換点に居たりするのだろうか?。いやそれは無いっぽいような気がするし、そうなったとして自分が死ぬまでに世界がそうなっているとも思えないがなぁ。