隠れた人材価値 (Harvard Business School Press)、続き。

 今、エントリーを書こうかと、ざっとサウスウエスト航空の章を流し読みしてたんだけど、えらい迷った。今、日本 権力構造の謎〈上〉を読み始めており、この中で描かれている日本の労働環境の歴史などを読んだりしていると、なんというか凄く胸が熱くなる。あと、一回目読んだときと随分印象が違っていた。この本は従業員から隠れた才能を引き出すために、従業員を抑圧するのではなく、むしろ大切に扱うことを説いた本であり、サウスウエスト航空のエントリーを上げようと思って読んではみたものゝ、この会社よりはこの本の他の企業のほうがもっと社員に対する扱いが良かった。
 さて、ISBN表記だとかなりタイトルが長いので、以後Hidden Valueと略したい。エントリーを上げる際に読み返すと、また色々考えが変わるだろうということをご容赦願いたい。で、早速なんだが、大体ここで取り上げられているテストケース企業群の特徴は、従業員が正規雇用であり、社内の福祉厚生部分がかなり手厚い。そして経営層が威張り散らして命令するという上意下達ではなく、むしろ現場の従業員に裁量が与えられている。以前も「ブラックホークダウン」に合衆国軍の様子が描かれており、現代戦の最先端では、現場の下士官の情報や状況判断に司令部がサポートをするような体制にもうなっているんだよなんてことを述べたのだが、全く同じような組織も登場している。
 他にもいろいろあって、待遇の面だけ見れば従業員にとって天国に近いものがあるのだが、じゃぁどうやって社員が前向きに仕事に取り組むのか?という企業側の対策として、大体次のようなものが上げられる。まずは、入社時に入念に選別を行っているらしい。日本だって最近は多次面接なんかをやっているじゃないかと言われそうだが、日本のそれは面接者が質問形式で応募者に答えさせる形式だが、どうもこれらの企業は違うように読めた。会社の持つ価値観ってのを応募者によくよく納得してもらうというか説明し、そりゃ質問もするのだろうが、基本話合うという形式っぽい。もちろん技術職は技能を問われもするが、それ以外は経験を問われずに、社風に合うかどうかで判断されているっぽい。また、従業員の伝手で紹介される場合が多いようだ。
 その他に社内研修が多いように感じた。研修の外部委託はほとんどないようで、経営層が外部コンサルタントに頼るという形跡もあまり見受けられない。で、経営に関する社員に対しての情報開示がかなりなされている模様。社員一人一人が経営状況を知っている状況なので、何をしたらよいのか考えることもできるし、研修で他の社員と話し合う機会も多いのだろう。経営者も研修を受けるのだが、雲の上のひそひそ話ではなく、現場で従業員と一緒に働くなんてことをしているところもある。とにかく日本と比べると上下の垣根がほとんど無いような印象を受ける。
 まぁ今ざっと思いつくまゝまとめてみたのだが、なんか違和感がある。自分ですらこんなんでやっていけるのか?と思うぐらいだ。もちろんこの本の執筆に当たっての取材に企業側が答えていない部分もあろうから、何が本当の収益につながっているのか、その本質部分が隠されているのかもしれないが、でもこの本を読んでなるほど社員が働くはずだわと納得することも多かった。以下、多分途中で飽きると思うんだが、企業ごとにまとめてみたい。

 サウスウエスト航空については、ネットでも経営のユニークさで記事になっていることも多いので、特に記す必要もないとは思う。が、自分の整理のために、思いつくまゝだらだらと上げてみたい。
 まず収益なんだが、どうも創業時数年を除いて、今まで連続して黒字経営らしい。航空会社なんで、会社による違いなんてそう出せないと思ったりするんだが、徹底した低コスト高稼働率による効率化で達成しているらしい。飛行機がゲートに到着して再度離れるまでに15分しかゝゝらないらしい。そうやって時間を稼いで運用時間を長くするのだ。パイロットの滞空時間も長いし、従業員のやる作業も多岐にわたる。最近は増えたらしいが、運用機種は長らくBoeing737だけであり、これだと整備方法も部品もひとつに絞れてしまう。航空路線も厳選しているらしく、収益が上がりそうに無い路線はあきらめるとのことだ。機内食は無く、ソフトドリンクの提供のみ。で、従業員の給料は4万〜6万ドルということだ。経営層の役員報酬もほとんどないとのこと。
 まぁこうやって眺めてみれば従業員を酷使しているとも言えるワケだが、だからこそ待遇を良くするのだろう。金銭面ではそれほど高待遇ではない。で、サウスウエスト航空の価値観なんだが、面白く仕事をしようというもの。これはネットで拾ったエピソードなんだが、乗客がサウスウエスト航空の従業員がふざけているとクレームをつけたところ、いや、ユーモアを解さないおまえが悪いってないようの手紙を送ったなんてこともあったらしい。インフォーマルな服装でニュースにもなったが、とにかく採用でもユニークさを重要視しているっぽい。
 さて、実はやはり読み返して、サウスウエスト航空が従業員を厚遇しているという具体例があまり見つからなくてちょっと意外だった。やはり航空会社だと安全が重視されるので、社員に要求されるモノが大きいんだろう。たぶん勤務に必要な作業はほとんど他の航空会社と変わらないんじゃないかと思う。でも安く働いてもらうためには抑圧的な方法ではダメで、そのため職場で楽しく働くことをトップに据えたのだと思う。採用の段階でユーモアの無い人間は排除しているわけで、いわばプラス思考の人間だけが従業員になっていると考えるといゝだろう。あとは社員に対して居丈高になることも無く、情報開示も十分に行って、職場全体で収益を上げるという目標に向かって何をすればいゝのか考える雰囲気を作っているのだと思う。入社時の選別と士気向上に特化した企業といっていゝのではないだろうか。