この素晴らしい世界に祝福を! 全話

 今続編放映中だが、第1期の評判がまぁまぁよいので視聴してみた。原作未読。もとはWeb小説ということは知っていたが、視聴後Wikiを見てみるとやはりというか、なろうだった。しかし今はなろうでの公開は終了していて読むことはできないらしい。角川が拾ってWeb版を加筆修正して商業化。
 現実逃避としてのファンタジー世界転生という流れはまさになろう小説特有のもので、内容もギャグ主体の典型的なラノベ。なろう小説といえばどうしても自分はリゼロとの比較をしてしまうが、このすばのほうはギャグとして割と笑える作りで、リゼロのようにポリコレ棒を振りかざゝないので、ジャパニーズRPGネタとして内輪受けと割り切ってみてしまえるのは好感度高い。とはいえ、このすばの作者は活動主体を商業に大きく振っており、だからこそ人様に見せるために体裁を整えるという流儀は守っているようで、またリゼロの作者もおそらく活動はWebのほうに振っているだろうから、商業化における流儀より実験的な要素を好き勝手に盛り込むよという態度は間違っていないとは思う。
 ギャグとして笑えたのでそんなに悪印象はないのだが、かといって人にお勧めできるほど面白い作品かというとそれはちょっと微妙で、数あるラノベレヴェルにプラスアルファとしてちょっと光る部分があるなといったところ。ネタが西洋ファンタジージャパンローカライズなので、こういう素材を持ってくるのは人を選ぶよなとは思うのだが、といってもこれはおそらくDQやFFを楽しんだ世代が今そろそろ50代あたりまできてるから、そうそう忌避すべき問題ではないのかもしれない。とはいえ、あくまでファミコン世代が親しんだ西洋ファンタジーもどきは、本場の習俗や宗教観を著しく欠くものであって馴染みはあっても生活と表裏一体というのとは違うのでそのへんどうかなぁと思わなくもない。そうはいってもクリスマスがあちらではキリストの降臨を家族静かに祝う聖夜であるのに対し、日本ではマーケティングによって扇動された性夜化されていたり、ヴァレンタインデーや昨今の流行であるところのハロウィンも恒例行事化しているのでそのへんあまり目くじらを立てゝもなというのはある。
 この作品でメインキャラクターは、主人公こそ引きこもりという属性はあるが、転生後の世界では決して引きこもりではなく、かといって突き抜けた才能がない平凡であるが、ほかのキャラクターは突き抜けすぎていてこれはこれでなんとも思い切ったなという感じ。こういう冒険モノは和洋問わずそれぞれのキャラクターに得意分野を割り当てられているものだが、得意分野以外はまったく使い物にならない設定というのはちょっと新鮮。割と主人公になんの特典もないのにヒロインキャラが心を寄せるというのが萌え作品の定番であるが、主人公はともかく、脇を固めるヒロインの突き抜けっぷりをみるにつけ、おそらくこれは「こだわりがあって他者を凌駕するような突き抜けた技術を磨いていなくてはおそらくこれからは社会的に相手にされない」という提示のようにも思われてなかなかにして感慨深い。政府が高度な技術をもつ移民を検討しているわけだが、これは裏を返すと日本人にそういうのがいないということの証左でもある。大学の研究予算を減らして小中高の教育は教員を弾圧するようなことまでして愚民教育を施しておいて高機能移民とは何の冗談かと思うわけだが、どっちにしろ労働の自動化、情報技術による高度な効率化が進めば、平均程度の能力ではもう企業はそういうのを相手にしないよ…利権関係にある上級国民の子弟は能力が低くても雇うけどね…みたいな世の中になってはいるので、これはある意味そういう日本の現状を映したものといえなくもない。
 恋愛要素が割と排除されているのも珍しい。女騎士ダクネスとの絡みでそういう要素がないわけではないが、むしろ彼女のM属性と認知欲求を満足させる程度に収まっているように感じる。女神アクアと馬小屋で寝ていたりするが、そこでドキドキ展開になったりもしてない。
 あと、主人公とヒロインズが割と等価なのもよくできている。主人公とアクアの立場は場面場面においてよく転倒しているし、等価だといっても主人公は権威とかそんなのなしにちゃんとまとめ役を果たしているように見える。ヒロインズもともすれば視聴者の興味をひくために性別を女にしているだけであって、別に男であっても十分通用するし、ヒロインズも現実の女そのものというつもりもないが、等身大を目指した描写にしているようにみえる。女の視聴者の評判がよいかどうかまではチェックしていないが、少なくともこんなヒロインぶりっ子過ぎて現実の女とはちげーよという批判はないのではなかろうか。
 主人公の成長モノとしての要素がないわけでもなく(試練を乗り越えるのに知力を尽くすところなど)、かといって神妙な題材設定というわけでもなく敷居が低いというところは馴染みやすいと思う。平均以上程度のラノベの出来とはいえ、自分的にはギャグのヒット率は高めで、西洋ファンタジーもどきの設定もそれほど毛嫌いする程度のものでもないから、続編もチェックはするつもり。