侵略!イカ娘 第12話

 イカ娘を調査できてよかったじゃなイカ、三バカは。
 というわけで、最終回仕様。イカ娘不調で2パートも引っぱるとは思わなかった。病気編があったので、それもふまえるのかと思ったらそうでもなかったな。ギャグ要素も少なくて視聴者を泣かせる気マンマン。まぁ実際泣かされたけどな。栄子が溺れてからの展開はミエミエで、なんだかなぁと思わなくもなかったが、先が読めても泣かされたから、こんなもんなんかもしれないな。
 かけがえのない日常がテーマで、イカ娘は家族の中で大事にされる子供という位置付けだったと思うが、その子供に対するまなざしってのが非常に暖かく感じられた。大野晋だったか、日本語は家族の中でも末子を中心に関係が構築されるらしい。曰く、家族の構成員は末子に対しての位置関係で呼ばれるということらしい。例えば、三男が末子だとして、長男や次男は「お兄ちゃん」と呼ばれるし、父母も末子との関係で「お父さん」「お母さん」と呼ばれる。で、末子は大抵彼自身の名前で呼ばれるのだ。つまり、末子が中心。日本だと家父長制だったり、長子相続だったりするのだが、かといって家長(や長男)を中心にそれぞれの構成員が家長との続柄で呼ばれたりする事は無い。この作品ではそういった意味ではたけるを中心にイカ娘は「お姉ちゃん」と呼ばれるべきだが、さすがに相沢家では一番の新参者であるということで、彼女自信が末子扱いだったように思う。まぁそれでも日本語には本当の末子であるところのたけるに対する「弟を示す呼び方」がない*1ので、さすがにたけると呼んでいた。かといって栄子や千鶴がお姉ちゃんと呼ばれていたかというと、相沢家以外の人からそう呼ばれていたような記憶がないので、なんともいえないところではある。たゞ、たけるイカ娘に対してはごく初期からイカ姉ちゃんと呼んでいたから、彼がイカ娘を早い段階から家族扱いしていたようにも思える。
 で、千鶴は「イカ娘ちゃん」、栄子は「イカ娘」と呼んでいるから、彼女たちにとってたけると同じ末子扱いではある。栄子・悟郎が(たぶん)高校生、たけるは(たぶん)小学生で、イカ娘と友達である清美は(たぶん)中学生なので、イカ娘は中学生といったところか。精神年齢的にはむしろ小学生(男子)のようなイカ娘だが、こういう関係性なんだろうなと思われる。そう考えると、なんかちょっとホームドラマとしてはいびつなものを感じるところもある。
 自分的にはこれは「サザエさん」の別家族現代ヴァージョンかと思っていたが、ちょっとウェットなあたり、かなり性質が違ったものにはなっている。なにせ千鶴が母親役だとしても、両親が物語に登場しない。かといって、親のいない家族が助け合って暮らしていくという、高度経済成長期に良く見られたお涙頂戴モノとも違う。この不景気な中、地方ではシャッター街ばかりになり、中小企業・個人商店がバンバン潰れていく中、本作の海の家で余裕をもって暮らしていける相沢家の存在にはほとんどリアリティはないのだが、視聴者はほとんどそれにツッコみを入れることも無く、こういう設定をあたりまえのように受け入れているというか、全く問題にしない。サザエさんが戦後間も無い頃の日本を舞台に、都市部では既に稀少となっていたとはいえ、日本では理想とされる2世代世帯で、大企業に勤めるサラリーマン世帯をモデルにしていたのとは対照的だ。サザエさんではあくまで「食うための職業生活」というものが厳然として存在しているが、この作品はその「食うための職業生活」ってのが、イカ娘を中心とする感情世界を修飾するネタに近い扱いになってしまっている。言うなれば、サザエさんってのは、平均的な家族生活というフォーマットというものがあり、それが視聴者に共通するところが多かったために、共感なり問題提起ってのが行われやすかったのだろう。で、本作は生きるために働かなくてはならないという前提はありはするものゝ、いかによりよく生活を楽しむかってところに重点が置かれているように思う。
 但し、その「よりよく」って部分が、'80年代後半からの「カネを使って面白おかしく暮らしていこうぜ」ってのとは一線を画す。あくまで家庭生活の細部に注目して、コミュニケーションの中に見出していこうって路線のように感じられる。で、一昔前からヴァラエティで流行っている、人を貶して安息感を得るというのとも違っている。原作はほとんどの読者からぬるくて面白くないという評判だそうだが、自分にとっては本作の目指しているだろう苞後世に大いに共感できると思うのだがどうか?。
 ちょっと過剰演出気味だったり、一部のネタに非難はあるようだが、自分的には名作評価をしたい。最初はイカ娘可愛いだけで終わってしまう作品かと思ったのだが、通してみるとそうでもないような気が自分にはした。イカ娘およびイカ娘を通じて「れもん」に引き寄せられてくるキャラの空回り感も、とても物語的にバランスの取れたものになっていたと思う。もっと深い作品に出来たとは思うが、スタッフはかなり健闘したんじゃないかと思うのである。

*1:祖父・祖母にはおじいちゃんおばあちゃんという呼び方が、父母にはお父さん・お母さんという呼び方、兄姉にはお兄ちゃん・お姉ちゃんという呼び方があるが、弟妹にはそれらにあたる呼び方が無い。