そらのおとしものf 第11話

 カオスも剥くんだ。
 イカロスの智樹記憶の消去はどうも意図しないものであったらしい。なんか機械的表情下での言動は、無意識でのそれと対応しているって事なのか。記憶欠落状況下でのドタバタを見られると思っていただけに、肩透かし感が漂うのだが、このネタを膨らませると混乱すること夥しいので、終わってみればなるほどと思った。
 しかし、詰め込んできたなぁ。最後のアストレア・カオスの対峙場面での間を稼ぐのは大変だったろうに。それでもイカロス・ニンフ・アストレアの三未確認生物の物語を埋め込んでいるだけでなく、カオスの処理も入ってる。まぁその分そはらや五月田根の見せ場がなくなっちゃてるわけではあるのだが。
 戦いの場面は、拳で語り合うって構図がまた熱くなるものがあるわけなんだが、たゞの想いのぶつかり合いってだけじゃなくって、まさに構造が示されているのが興味深かった。智樹が現れるまでのエンジェロイド達の戦いは、想いこそ純粋であるのだけれど、個人の能力の単純な加算でしかなくって、対応能力のあるカオスにやられるのに説得力があった。ニンフは戦況分析しかしておらず、基本戦いに参加してない。イカロスも攻撃が相手の霍乱ぐらいにしか作用していなくって、攻撃目標が明らかなせいか、カオスにとっては対応が容易なものにになっている。だからアストレアの攻撃も読みやすかったのだろう。これではあしらわれるのがあたりまえというのを絵で示している。イカロスの悲痛な台詞も空しいだけだ。たしかに自己犠牲は美しく感じるのだが、この作品はそのセンチメンタリズム的な自己犠牲が状況を変えるのには無意味であるというのを示している。これはなかなかよくできている。他の作品だと自己犠牲で問題を解決しちゃったりするもんな。でもそういうのは、悲劇を生んだ構造自体を変えるものでないから、状況が仮に改善されたとしても一過性のものに過ぎなくなってしまい、また同じ悲劇の繰り返しを招く。そしてその解決手段は自己犠牲が有効と刷り込まれてしまっているから、構造が改善する事はない。
 智樹出現以降の展開はまさにこの作品のメッセージそのものなんだろう。智樹自体は戦いに参加せず理念を語るだけなんだけど、しかし、それがエンジェロイド達の結束の中心になるものだ。前期第1話で、智樹が世界征服を望み、イカロスが実行する場面があったが、あのときは智樹を王として認める人間がいなかったせいで、一人ぼっちになっていた。が、こゝに至って、がらっと変わっている。智樹がエンジェロイド達を欲し、またエンジェロイド達も智樹を欲しており、まさに智樹はエンジェロイド達を束ねる王としての役割を果たしている。そしてエンジェロイド達は王である智樹のためではなく、智樹を含む自分たち全員を守るために戦うのだ。
 戦いの描写もエンジェロイド達の結束を示していた。それまでの描写で智樹だけじゃなくってエンジェロイド達がお互い気を遣いあっていたわけで、信頼するのに躊躇は要らないのに説得性がある。そして今まで連携をしてこなかったので、必要性は理解しているが連携の仕方がわからないという状況もなるほどだし、それを想定して守形が年長者としてそれを示すというのにも納得が行く。イカロスの追尾攻撃がカオスの触手攻撃をよけるというのも、わかりにくいのをニンフが説明するのにも納得だし、単純な突撃攻撃しかできないアストレアをカオスが見失うのも、たぶんニンフがハッキングをかけたせいだろうというのにも思い当たる。智樹出現前よりも攻撃が多様になっていて、カオスが対応しきれないであろうというのも、十分絵で示されていたように思う。で、カオスを殺すのが目的でなく、戦意を失わせるための攻撃であるわけだ。智樹出現前はアストレアは剣でカオスを貫こうとしていたが、出現後は盾で圧迫している。
 さて、カオスだ。前にもカオスは実はいろいろわかってやっているんじゃないかと述べたのだが、やはりそうだと確信せざるを得ない。もちろん、カオスは生まれたてだから、例えば愛がなんなのかはわからないというのは当然だ。が、カオスが見たところ、イカロス達が智樹に愛されているというのはわかる。わかっていて、カオスはそれがうらやましいのだ。だから、カオスが「愛とは何か教えろ」というのは、要するに「愛してくれ」の裏返しの表現。というより最後には直接、愛してくれって言ってるだろ。で、その台詞が、イカロス達に「愛とは何か」というよりは「自分にとって愛とは何なのか」という突き詰めにもなっている。で、カオスは智樹との会話で、受容を確認して安心するのだ。いや、まぁエンジェロイドとか人間の不器用さを強調したもの…いや、いうなれば人間もまたそうなのだが…だから、あんまりロボット扱いするのもなんだが、カオスはシナプスのマスターの命令を無視しちゃったりしているから、イカロス達よりは自己学習能力というか自律性が強い個体なのかな?と思っていたんだけど、あんまりそうと断定できる要素はなかったかな。
 まぁともかくも、イカロスは繋がりを際確認したし、ニンフは孤独感の解消、アストレアは自決(というより賢くなった?)を獲得して一段落ついた感じ。とりあえず当面の敵はいなくなったし、かといってシナプスと対決するには時間がないし、次回何やるんだろ?。