お忍びでの就業体験の続きを見てみよう。
だれもが納得していました。今のような競争の激しい市場で戦い、生き残ろうとするのなら、チーム全員が出塁しなくてはならないと。
(中略)
ピア・プレッシャー(仲間同士がお互いにかけあう圧力)は強烈です。交代した後でも人手が必要なら、自発的に残って仕事をする。こんな姿勢に自分は慣れていませんでした。NUMMIの従業員はそれを本気でやってるんですよ。彼らは一点たりとも不良部品を出さないことが顧客を守ることなんだ、それが自分の仕事なんだと、肝に銘じているんです。クビになるのが怖くてやっているんじゃない。実際、自分が元いた工場なんかよりNUMMIの方がよっぽどクビにするのは難しいと思います。
チーム・リーダーのおかげなんです。自分のせいで生産が遅れても、くよくよしないくていいってことが分かったのは。なんとしても質の高いパーツを作ること、これだけは絶対に外せないのです。最初のうち、私は遅れがちでした。数日間はチームのみんなが加勢してくれました。仕事だけでなく、規律もチーム全体で協力しながら守るようにしています。遅刻を繰り返したメンバーは、全員からこっぴどくやられていました。ピア・プレッシャーは本当にたいしたものです。だれかを雇っておくか、それともクビにするのかを決めるときにもチームの力が相当にものを言うんです。
仕事を安全に効率よく遂行するため、絶えず努力が払われていました。提案を速やかに実践する制度も整備されています。チーム・リーダーとコーディネーターは、予定表の作成や予算の決定、その他たくさんの管理面の仕事をこなしています。ほかのGMの工場だったらそんなことはマネジャーかエンジニアがやることです。初めから、重要なのはどんなことか、はっきりと分かりやすく正直に話してくれます。しかも、これを補うように、品質、生産性、安全性、出勤状況の死票が工場のあちこちに表示されているのです。一ヶ月に二回、ラインを止めて三〇分のチーム・ミーティングが開かれます。そのときには自分たちの実績の見直しをするのです。実績指標を手に、みんなが和気あいあいとやっているのは印象的でした。組合でさえ生産性の重要性を熱心に説きます。会社を台なしにしてやろうとでも言いたげにサボる労働者を組合が後押しすることなどありません。お互いの助け合い、友情、規律正しさ、誠実さ、一生懸命働くこと、生産性と品質の重要性の強調が社風なんです。あそこは本当に素晴らしいところですよ。
製造担当のマネジャーとして私は、自動車業界で勝ち抜くには、時給で働く職工たちをサポートすることが一番大事だと考えてきました。そんな私が腰を抜かしてしまったのです。NUMMIの生産プロセスの照準がこれほどまでにラインの従業員をサポートすることに向けられているとは思っていませんでしたから。ここでは正真正銘、生産が王様です。チームの一員として従業員たちは、問題が起きたときにはいつでもエンジニアリングのサポートを受けることができます。目標はただ一点、組立ラインのオペレーターをサポートすることです。時給で働く職工とチーム・サポートをかみ合わせるように行程とシステムを組むことが成功のカギを握っていると思うのです。
あと、ポイントを雑に抜き出してみる。利益確保はコスト削減による。従業員の半分がマイノリティ出身である。レイオフはしない。社員を公正に扱う。成果重視ではなくプロセス重視。現場で問題を解決するように仕向ける。組合との関係は良好。専従にも会社から給料が支払われる。割増報酬はほゞない。こんなところか。