真・恋姫†無双〜乙女大乱〜 第3話

 本当にふんどしだったのか。
 たしか、この時代は紙はあっても書物は巻物だけで、本は無かったはずだが…、とより後世の発明品である眼鏡を差し置いてツッコんでみる。結構史実を改変することが多い本作なんだが、呂蒙が大人になってから勉強に励むとか、魚腹の剣で暗殺に成功した専諸の故事(しかも同じ呉の話である)を押さえていて、妙に感心した。
 さて、エピソード的には史実とは違うんだろうが、今回の話は涙なくしては見ることができなかった。呂蒙が取り立てられるまでという風に見えるのだが、ここは君主というか、リーダーとしてのあり方の理想型がある。
 そもそも孫権もしくは孫策は、人材確保に熱心だったとはいうが、この話での新人に対しての接し方ってのに泣かされる。もちろん呂蒙の素直さに拠るところも大きいのだが、なにより部下を育てるという点において細心の気遣いが感じられる。呂蒙ドジっ娘の気質があるのか、それともあまりに身分の違う人と接して彼女が緊張しすぎているだけなのかもしれないが、その呂蒙のミスに対して狭量な態度を示すのではなく、むしろ呂蒙のからだのことにまで思いを巡らせるわけだ。情報も共有しているし、微服で町を散策するという事は観察眼も優れているということだろう。呂蒙モノクルを下賜されて、そういう孫権を眩しく感じるのは無理もないことである。
 孫権呂蒙と事においては対等に話しているワケだが、これは呂蒙の素直さ、向上心に拠るものだろう。ネットで史実を漁ってみると、決してそうではなかったらしいのだが、この作品の描写だと職務には忠実であろうとしているが、あまり出世欲は感じない。自分に示された厚情に対して恩を感じ、一人の人間として孫権のそばで仕えたいって心がけは美しすぎる。
 さて、強面の甘寧だが、呂蒙に厳しくあたっているところが目に付くので惑わされそうになるのだが、これまた上司というか管理職としてなかなかのものである。まぁそもそも冒頭で親衛隊トップの甘寧と対戦しているという描写からして、呂蒙はそれなりの実力があるということがわかるんだが、どうやら甘寧は初めからその実力を見込んで孫権の側近に推挙したらしいということが見て取れる。孫権の護衛につかせたのは、孫権呂蒙を見極めさせるためだろう。居眠りしたことにたいする処分は当然のことだ。そして面白いのが、孫策の命を救った(というよりは周瑜孫策の盾になってたから、周瑜の命を救ったってことになるのだが)ことについて一喝したことだ。物語の展開としては「よくやった」と褒めてもおかしくない場面であるが、ここは敢えてそうしないでいる。というのも、親衛隊の証を返上させたというのも同じであるのだが、親衛隊に未練を残さない処置であるってことがその後の描写でわかるわけだ。別にいいじゃんかと。孫策の危機を救ったのだから、その功を称えて孫権の側近に取り立てるってことでも辻褄はあうじゃんかと。でもそうしない。それが甘寧の思い遣りだったりするワケだ。甘寧自ら孫権の側近になって出世するんじゃなくて、あくまで呂蒙の実力を見込んで彼女を推挙するワケだよ。
 いやはや、ホント、全体の構成が理想の上司とは?ってことで組み立てられていてやたら感動したよ。自分も就職したての頃はこういう上司がかなりいたんだけど、近年めったに見かけることが少なくなった。別にこういう人が職場にいないわけじゃないんだけどね、上司にはならないんですよ。そうでないのがなってる。別に人材が枯渇しているわけじゃないんだけど、現実問題として人事が上手くまわってないから今の日本のこの惨状があるってホントよくわかるよなと。