国鉄民営化のもたらしたもの、それは予期されたものか

 電電公社民営化の出来レースはともかくとして、国鉄民営化の是非は微妙です。やはり思い出すのは田中角栄日本列島改造論で、国鉄に関しては全国に新幹線網を張り巡らせるというものです。今となっては荒唐無稽と感じられもするのですが、地方の振興も考えられていたことに感心します。結局「他のところにもきちんと金を落とすから、まず自分の権力基盤に先に金をばらまかせてくれ」というものに終わったような気がするのですが。もし田中角栄が失脚しなかったら、都市部に集中していた人口がまた地方に分散し、都市一極集中でない全国津々浦々が発展した可能性も考えられるのですが、本当にそううまくいったかどうか。
 鉄道は陸上輸送では比較的コストの安い大量輸送手段ですが、有効なのは沿線つまりターミナル付近で、それが限界でもあることです。今日ではよほどのことが無い限り、東京を拠点にすると日本全国で一日かけて行けないところは無いぐらい移動が便利になりましたが、昔は遠方に行くには2〜3日かかるところはざらでした。途方も無い地方への鉄道網の整備はどう見てもコスト的に割に合わない。そこでモータリゼーションの高まりとともに道路網の整備が考えられた可能性があります。
 これは結果論なんですが、現在道路網が日本全国に張り巡らされ、自家用車を使った移動が非常に便利になったこと、自動車が今も日本の戦略輸出商品であることを考えると鉄道から自動車への輸送手段の転換は国の方針としてそれなりに正しかったような気がします。日本は資源が無いので、一次産品であればそれこそ大量生産の価格勝負なのでしょうが、国土の狭さが邪魔をしております。二次産品であろうと、三次産品であろうとなにかしら付加価値を財に加えて商売しなければならないのですが、今何を作ってもフォロワーの追い上げに四苦八苦です。電子部品はいいところまで行ったのに、結局ハイレベルなものは米国に、ローコスト分野では韓国・中国(台湾)にやられちゃっています。キャノンあたりが羽振りがいいのですが、それもいつまで持つやら。
 自動車については恐ろしいことに、インフラを国がやってくれちゃっています。鉄道なら線路をひく土地を鉄道会社(国鉄なら国)が買わなければなりませんが、道路は国や地方公共団体がすべて買収します。自動車製造会社はそのインフラにただ乗りするだけです。国民に自家用車を売りつけ、得た利益で設備投資&開発をします。地方では車無しの生活が考えられないわけですが、そこまでして自動車製造会社を潤す育成したうえで、今となっては世界一要求水準の高い消費者に鍛えられた(クレーマーが多いってことです)自家用車が輸出商品として全世界で売れているわけです。そうして稼いだ外貨で日本国民は世界でも例を見ない贅沢な生活をすることができているのかもしれません。経済界で自動車製造会社出身の財界人が大きな顔をしているのもそれなりに理由があるのでしょう。ただ私企業でも国家的なバックアップを受けているという事実を考えてみると、果たして本当に私企業なのか?それは国営企業といわないか?とも思えるわけです。今は利益をあげて景気がよく、就業の機会をもたらしてくれてはいますが、海外に拠点を移しつつあり、いつまで日本に貢献してくれるかわからないのではありますが。
 そう考えてみると、鉄道に投資して無駄を増やすより、日本が生きていくために産業の中心を自動車関連に据えたことは実は慧眼だったのかもしれません。国鉄民営化という名の産業の転換だったのだとすると、民営化という皮に惑わされてはいけないのかも知れず。まぁ郵政民営化がそのような深読みや国策の転換という構想がまったく今の私には見えないのです。あるのかもしれないし、民営化という名の人気とりだけなのかもしれず。