特攻隊員の憂鬱

 戦争指導部の責任回避のため無駄死にさせられた特攻隊員ですが、これだけ酷いことをされていても、ご遺族の方々があまり当時の責任者や国を訴えたという話を聞きません。特攻隊員の手記など、注意して読むとだまされたことが滲み出ている文も見受けられ、ご心痛は計り知れないものがあります。もちろんご子息が無駄死にしたのではない、立派にお国のためになったのだと信じたい、死んだ息子を辱めたくないがために、敢えて耐えていらっしゃる方もいらしたのかもしれません。しかし、本当は戦争指導部の卑怯な嵌め込みのため訴えたくても訴えることが出来ないという事情も大きいのです。
 戦争指導部が特攻命令を下したのであれば、当然こんな無謀な作戦に携わった関係者はことごとく処罰されなければなりません。単純に戦局が打開できなかったという一点をとってみたとしても、当事者は軍法会議モノです。が、それすらされた形跡がありません。(もしかするとされているのかもしれません。)じゃぁ、命令が下されなかったかというとそうではない。ではなぜ戦争指導部は作戦の失敗の責任も人道に反する命令を下した責任もとらなくていいのか。


 それは、特攻作戦が志願制だったからです。


 志願制であれば、非人道的な作戦でも司令官は責任をとらなくてもいいのです。司令官は部下が特攻を志願してくるから、それを許可しただけという形をとるのです。いやがる部下に無理強いしたのではない、あいつらが望んで死にたがったんだから俺には責任はないというわけです。命令は下されました。部下が死にたがったからといって、彼らが勝手に軍の資材(航空機、爆弾、燃料など)を使っていいというわけではありません。陛下の大切なあずかりものですから。部下の望むとおりに司令官は準備をしてやった。命令を下したくはないのだけど、部下がそこまで言うから軍の資材を使って作戦を実行していいという職務命令を仕方なく下してやった・・・という形をとるのです。それでいて、死ぬまでの道のりはすべて整っているわけです。
 だから、遺族の方々は当時の責任者を訴えたくても訴えることが出来ないわけです。あなたの息子さんが死にたがったんだ。我々は止めようとしたんだけどどうしてもというから仕方なく許可してやったんだ。なんで我々を訴えようとするんだ?というわけです。そして英霊として祀ってやる、年金はやる、だからおとなしく黙ってろというわけなんです。
 現場では、世間知らずの若者たちがうまく煽動されて嵌め込みに遭います。しかしどうせ戦争には負ける、特攻なんて行きたくないという若者もいました。そういう若者は特攻を志願するまで壮絶なイジメに遭ったそうです。部隊長がイジメたわけです。だって他の部隊は100%志願者が集まっているのに、自分の部隊だけ志願しないものがいるなんて許されることではありません。そういう奴が出れば他の部隊から志願しないものが続出するからです。おまえの部隊から脱落者が出るから他の部隊にも影響するじゃないかケシカランというわけです。部隊長のほんのその瞬間の保身のためにイジメを奨励するのです。話はそれますが、成果主義の台頭とともにあらわれたあの悪名高い数値目標とやらは昔からあったわけです。達成目標部隊全員特攻隊志願者。国民が納得するであろう敵の撃破数を目標としてあげ、実際は達成してもいないのに、目標を上回る成果だと捏造を行った大本営発表終戦後反省してしばらくでてこなかった数値目標とやらが、時間が経つにつれ亡霊のように今よみがえっているわけです。
 戦争指導部のあまりにひどい組織的な責任回避には空いた口がふさがりませんが、特攻隊員やそのご遺族の方々の無念はいかばかりか。重ね重ねご冥福をお祈りいたします。
 さて私なんですが、たしかに自分の命を絶つなんてまでのことはない(だからアメ玉をしゃぶらせてはくれないのでしょうが。)のですが、やっぱり特攻を嫌がった方々が蒙ったイジメに遭っている(少なくとも私はそう感じている)わけです。某漫画の言葉をお借りすれば、


   い ま の わ た し が ま さ に そ れ


なわけです。