普通誰も読まないだろう?

 ひょんなことから石川英輔の著作にはまった事があったのですが、またまたひょんなことから彼の連載エッセイを読む機会を得ました。普通の人は目にしないだろうと思われる、「原子力文化」という雑誌です。昔からこの人はエネルギー問題に関心があり、形だけの省エネとかをかなり嫌っていました。説教くさいといえばくさいのですが、個人的には彼の説教がかなり好きで、講談社文庫を何冊か持っています。今回が最終回で、やっぱり心に染みる部分がありましたのでご紹介いたします。

 特に昭和20年の敗戦以来、私たちは物質的に豊かになることを最大の目標として生きてきた。空腹を抱え、ちびた下駄を履いて埃っぽい道を歩いていると、アメリカ人の若い女性が大型乗用車で追い越していき、舞い上がる埃を浴びせられるような経験を毎日していれば、ああもっと豊かになりたいと思わない方がどうかしている。
 その延長で、過去の貧しかった時代まで徹底的に批判し、江戸時代の日本はまるで地獄だったように教えられたものだ。その基本にあるのは、雑穀を混ぜた米を食べるより白米を食べるほうがよい生活で、なるべく体を動かさずに楽をしているのが良い、要するに冷暖房完備の高層億ションのような人工の極楽に住み、パソコンのキーボードに触れる以上の肉体労働をせずに十分な所得を得て、好きなスポーツをするとき以外は体を動かさずに暮らせるのが最高の幸福なのだというような発想である。
 こういう考え方をするなら、昔の人が不幸だったどころか、人類始まって以来、幸福だった人などほとんどいなかったことになる。しかし、昔は今より悪いにきまっていて、先祖から学ぶことなど何もない、あるいは、学ぶべきは、日本より進歩しているアメリカなど先進国だけだ、という発想が間違っていたことは、ほんの四〇年足らずで日本の子供の身心がこんな風になってしまったことからでも明らかなのではないだろうか。今のような生活は、動物としての人類にほとんど適していないことはほぼ確実だろう。

石川英輔 〇と一〇万の間 第27回<最終回> 人類は豊かさに耐えられるか(後)

 うーん。この雑誌は原子力の普及のため、つまり電気をたくさん使ってねということを言わんがための宣伝雑誌のハズでは…。まぁいいんだけど。また子供に成人病やうつ病が発生していることなどもうけて、最後に締めくくっています。

 高いところから下界を見下ろしている神様のような気分で、トキを保護しようとか地球にやさしくしようとかのんきなことをいっている間に、自分の子供つまり人類の未来がすでにおかしくなりかけているのだ。

 あまり悲観的になる必要もないのでしょうけど、日本も末期的症状を呈し、かつそれが末期などではなく永続しそうなのに気付いてさらに気が滅入ります。