若年層の業

 直前まで、スターシップ・オペレーターズの若者の進路について話を進めてまいりました。なんかここ数日それの話題を耳にする事が多いので、もうちょっと駄考してみたいと思います。
 私は数年前からJMM | 村上龍電子本製作所に登録しているのですが、今回の話題が「若年層はバブルの後始末の犠牲者か?」でした。毎週月曜配信の話題が、金融経済の専門家たちに聞くというものです。ここ最近は内容まで目を通す気にならなかったのですけども、いちおう読んでみるかという気になり、ひととおり撫でてみました。ほとんどの寄稿者の論点が、

  • 中高年の雇用が若年層の雇用を圧迫している。
  • そのおかげで若年層が経験の場を失っている。
  • 社会情勢からいうと若年層の就職意欲が高まらないのもわかる気はする。
  • しかし若年層も努力はすべきだ。

とどこかで見たような内容でした。このような状態が実は日本だけでなく欧米にも見られることについて触れた人も複数いました。ま、帝国病ですな。
 話はちょっと変わるのですが、今朝のNHK第一のラジオで、経済ジャーナリズムの腐敗についてやたら気勢を挙げているおっさんが一席ぶっていました。バブルを煽って経済を破壊したのも、その後の日本の泥縄的対応でさらに状況を悪化させたのも、実は企業に有利な情報だけを選りすぐって世論を意図的にミスリードしていた経済評論家のなせる業だそうです。御用学者呼ばわりまでしておりましたが、何をいまさらと感じました。具体例を避けていましたので、まだ総論ぐらいにしか触れられないんでしょう。そのうち体力の弱った旧来の経済主体が見つかれば、ガス抜きに戦犯扱いされるところがでてくるかもしれません。
 JMMではあくまで雇用の問題についてのみ触れ、寄稿者の年齢層からいうと絶妙にクライアントの世代の責任を追及する言説が少ないこと、NHKでようやっと経済評論家のミスリードが正体をあらわし始めるなど、奇妙な一致を感じずにはいられません。
 バブルでは本業を無視した商慣行の乱れが見られました。特に印象深いのは実体経済を無視した、いわば資本自身が商品となったのがこの時代です。これを成熟ととらえる向きもありました。タイムラグをおいてアジア全体が食い物にされたアジア通貨危機なんてものもありました。バブルで負った損失の穴埋めに注目されたのが、若年層向けのマーケットです。若者に判断力がないのをいいことに、欲望を刺激する商品を次々に送り出し、親の世代から間接的に金を引き出すことに成功しました。若者から商品の便利な使用用途を親の世代が学習すると、それらもこぞって無駄な商品を買うようになり、大量消費のスパイラルが完成しました。このときに顧客満足度という言葉が流行ったのも耳に新しい限りです。最近になって親の世代も足元に火がついて目がさめたのか、スローライフとか、節約とか、顧客の選別とか、人件費の削減と企業内情報(技術)のバランスとか、国内産業の育成とか、ようやっとまともな商慣行や生活習慣を見直しているような気がします。残念ながら、JMMの寄稿者には経済を全体的に俯瞰して意見を述べる人はいませんでした。わかってはいても言わないだけだろうとは思いますけど。JMMで対象となっている若年層は25歳以下ぐらいの低い世代ですが、もうちょっと対象を広げると、雇用で割を食っているだけでなく、バブルで壊れた経済の修復のために犠牲になっている層が見えてきます。
 世代論に落とし込まなくても、社会を食い物にしていい思いをしている層は確実にいますので、とりたてて戦犯探しをここでは行いません。しかし、責任が自分にあろうとなかろうと戦犯が自主的につぐないをしてくれるわけはありませんから、自分の将来は自分で何とかするしかないんですけどね。親の世代も今子供に楽をさせてやれるから将来も何とかなるだろうと考えるのではなく、自分なりの方法で巣から追ん出す必要があると思いますよ。バブルが「今株価が上昇しているから、将来も上昇するだろう」という考えで破綻したわけですので。スターシップ・オペレーターズが御都合主義的ながらも、若者に努力を促す作品といえるかもしれないとやっぱり日が経っても感じてしまうわけです。