Hidden Value メンズ・ウェアハウス その1

 長くなりそうなので、分けてみることにします。メンズ・ウェアハウスがこの本の中盤に取り上げられているのは、多分かなり重要だからだろう。自分も結構感心させられた。この企業の特徴は、何の変哲も無い従業員を使って収益をあげていることに尽きる。ここは引用のほうが適当だろう。

 もっとミステリアスなことがある。知的資本が決定的な意味を持ち、社員の教育程度が高く、技術的スキルの高い分野において、社内の人的資源を活性化して高い業績の維持を図ることは確かに重要だ。たとえば、多くのハイテク企業では、大切なのは社員なのだという認識に立って、好調な経営を持続するために必要な人材の確保、定着に尽力している。ありとあらゆるアメニティ(健康相談、運動施設の整ったヘルスクラブ、気の利いた高級秘書、極上の食事の調整)を整備しているのもそのためである。だが、メンズ・ウェアハウスは違う。大概の経営者が「あんな人間はご免だ」と烙印を押したくなるような人間を使って、競争優位を確立している。同社の経営トップ四名に名を連ねる人材管理総括担当のチャーリー・ブレスラーによれば、「アメリカの小売業界の従業員の多くは、崩壊家庭の出身者です。私を含めて皆、学校の成績が悪く、教師に対して異口同音に『くたばれ!』などと言っていた人間なのです。」
 あまり魅力の無い職場だから、おおかたの社員は生涯ずっと小売販売の仕事を続けようと目標などないまま、とりあえず就職してくる。この業界で働くのは若年者か移民、そうでなければ、理由はさまざまにしろ、これ以上いい職に就くのが難しい人たちである。
(中略)
 賃金の低さ、お寒い限りの職場訓練、パート従業員の多さはこの業界の風土病のようなものである。メンズ・ウェアハウスはこれらすべての厄払いをやってのけ、社員をまるで医者や弁護士といったプロフェッショナル並に扱うことによって成功を収めた。第二のミステリーはどのようにして、またどういう理由で、同社はこのようなことをしたのか、人件費がかさむであろうに、こうした戦略がなぜうまく機能したのか、ということである。

 メンズ・ウェアハウスは社員を大事に扱うことで収益を上げているということだが、ステークホルダー(利害関係者)を次の優先順位で考えているということだ。すなわち、社員>顧客>サプライヤー>コミュニティ>株主の順らしい。顧客の順位が高いのはまぁそうだとして、サプライヤー、つまり日本でいうところのメーカーだと思うのだが、これが続く。

 サプライヤー欠陥商品や役に立たない商品の返品に快く応じれば、社員は一層気軽に顧客の返品に応じることができる。

 社員に対する待遇も、こういう例がある。

 社員が社内のものを着服したり盗みを働くようなことがあっても初犯で直ちにクビになるとは限らない。金銭的に困っている社員には、例えば車の修理ができるように、無利子のローンに応じている。

 「限らない」という文言があるから、すべての悪事が許されるわけでもないようだが、結構温情のある職場のようだ。
 ふぅ、結構抜き出しってのは疲れるな。というわけで、エントリーを一旦〆ることに。