ヒトラーの経済政策-世界恐慌からの奇跡的な復興 (祥伝社新書151)読了

 もともとは、①『「ヒトラーの経済政策」副題:世界恐慌からの奇跡的な復興 武田知弘 著(祥伝社)』を読む。その1 ( 経済学 ) - Ddogのプログレッシブな日々 - Yahoo!ブログを目にして、いつかは読んでみたいと思っていた本である。250頁ぐらいあるが、3時間ほどで一気に読んでしまった。1時間で20頁のオリエンタル・デスポティズムとは大違いだ。
 オリエンタル・デスポティズムを読んで、日本はもともと封建社会であるが、それだと庶民が奴隷化するので、皮肉なことだが、実は水力社会・機構国家という専制国家のほうが豊かになれるんじゃないか?と述べた。ドイツも西欧という亜周辺であり、水力社会の辺境に位置している。しかもヨーロッパの中では、絶対王政を早くから確立し統一国家になるのが早かった英国・仏国にくらべて、神聖ローマ帝国は基本封建諸侯の寄せ集め国家という実態が凄く長かった歴史を持つ。それがプロイセンを盟主とするドイツ(第二)帝国となり、WWⅠまで専制国家として隆盛を極めた。その敗戦後、世界恐慌を経てヒトラー政権が経済的に成功するというのが本書のキモ。
 日本・ドイツとも辺境に位置し、遅れてきた近代国家*1であり、双方ファシズム政権を経験するという類似性を持つ。しかも経済的に隆盛したのは、そのファシズム的なところが極大に達した時期というのが笑えない。今読書中の定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)も、国民の勤勉性だの書いてあって、これまた日本・ドイツの共通点でもある。民主主義的な近代市民としての個人の完成度を好むというよりは、システムに信頼を寄せ、依存する国民性だというのも双方よく言われることだ。なんつーか、もともとが専制国家としての歴史をほとんど経験していないのに、そういう方向性のほうが上手くいくってのは、凄く奇妙な感じがする。自分なんかは正直、そういうのは著しく民度が低いんじゃないか、好き嫌いでいえば専制的国家運営なんて好きではないんだけど、日本はそっちのほうが向いているなんて狂ってるんじゃないかぐらいの認識だ。でも高度成長期の日本が、有史以来一番専制的な国家運営の時期で、経済的にも世界を圧倒するぐらい繁栄し、しかも専制的だから庶民が抑圧されていたか?と言われれば、実は抑圧の程度がかなり低く、庶民のモラルが高かった時期なんでねぇの?ってのがある。これは経済的に豊かだったから、統治者に文句をいうはずもなかろうってのは以前にも述べたとおり。独裁者は国民を食わせていたからこそ支持された…ってのは本書のヒトラー政権もその通りってとこだろう。
 読んでいて、結構考えるポイントがあったので、とりあえずそれを思い付くまゝ羅列してみたい。

  • ワイマール共和国時代のドイツは政権がころころ変わっていた。政府が無能で経済的に困窮し、政権がコロコロ変わっていたのは、今の日本の状況と同じ。
  • ワイマール共和国は、今の日本ほどではないが、どうも利権団体に甘い政権が多かったらしい。経済を積極的に政府がコントロールし、金持ちにだけ有利なルールを変えて、富の再配分を行って景気を回復し・雇用を確保したのはヒトラー政権や高度成長期の日本であったりする。
  • 合衆国は昔からクソ。
  • 金本位制だと、保有量の多い合衆国が有利だったが、ドイツは賠償問題で破綻寸前だった。しかも大国はブロック経済圏を形成し、無資源国のドイツは資源の確保に苦労する。そこで貿易で物々交換のシステムをつくりあげた。
  • ヒトラーが政権を握って5〜6年で奇跡的に経済が発展したが、戦争突入で最終的には破綻した。賠償問題はあるにせよ、継続的な経済安定は可能だったのか否か。
  • ドイツは賠償問題や海外植民地を失っていたので、ブロック経済圏を作れず、貿易をせざるを得なかった。とうぜん輸出で外貨(金)も稼がなくてはならないのだが、ヒトラー政権の経済担当シャハトは過度の貿易黒字は慎むべきと考えていたらしい。戦後日本も黒字超過で失敗したのでは?。

 ほかにも色々浮かんでいたと思うんだが、いちおう思い付くまゝメモということで。なんつーか、民主党というか、現与党もコレを参考にしているんじゃないか?というよりは、前与党の自民党は、これらを無視して特権階級にだけ有利なシステム作りをしていたんじゃないかとさえ思う。余裕があったらこれらのフックをネタにまたダラダラと書いてみたい。

*1:早熟な近代国家であるイギリス・フランスはまた市民革命も経験。