黒神 第21話「神変」

 やっぱ強引だよなぁ。
 というか、世界の成り立ちの部分を流してしまっていたので、第17話よりおさらい。

  • テラより真神と元神霊と人間の三者が生まれた。
  • 三者はもともと別の世界で暮らしていたが、真神がすべてを独占しようとして境界を侵犯した。
  • 元神霊は自然の調和を担当。人間は現場仕事を担当。さて、真神の担当は?。
  • 真神が人間を殺そうとしたときに、元神霊と人間が契約して戦った。
  • 戦いの結果、真神は倒されたが、力はどうやら残っていたらしい。その封印の際、ドッペルライナーシステムという呪いが“人間”にかけられる。

 というのが封印までのお話。あと、元神霊が真神のかけた呪いであるドッペルライナーシステムを維持することを担当。なぜならマスタールートが増えるとテラが飽和し、真神が復活するためらしい。
 で、そもそもテラって何?とか、元神霊や真神は何のメタファーか?とか頭の片隅で考えていたんだけど、どうもこれぞってものが見当たらない。テラは善であろうと悪であろうと(というか善悪自体が環境などに左右されるものなんだけど)人間の欲望なんてものかなと考えたりしたんだけど、どうもピッタリこないんだよな。


 で、真神なんだけど、上記のまとめにもある通り、仕事はしないけど権力ばっかりは強大で、とにかく社会にとっては迷惑な存在としか規定されていない。今回の戦いの場面でも、真神はいわゆる一般的な“神”であることを何度も口にしていたんだけど、そもそも神っていうのは人間の想像の産物で、それを思い浮かべる人間各々の想像力に依拠する。考える人の能力が高いと、神ってのはいくらでもレヴェルの高いものになりうるが、反面品性下劣な人間が考える神ってのはまさに自分勝手なものになってしまう。自然宗教だろうと社会宗教だろうと、大抵の宗教ってのはそういう人々によってブれてしまう神の姿を統一する役割があって、それが社会規範になっていたりしたんだけど、この真神ってのはどちらかというと利権宗教の側面しかないという設定のようだ。まぁ現代日本ヒエラルキーでいえば、自民党政府や経団連を中心とする欲得特権階級ってのが容易に想像されるが、(労働者に働かせるだけ働かせておいて、成果は横取り、で労働者はポイッってのはまさにそう。真神が人間を殺そうとしてってくだりは、日本の自殺者割合が実数でいえばダントツで世界トップってのがそうだろう。)この物語ではかなりその部分がボかされているというか、精密に描写されていないっぽい。韓国では特権階級はどんな按配になっているんかね?。


 ドッペルライナーシステムという呪いってのは、結局帝国主義における、宗主国による植民地支配の手法“Divide and Rule”ってとこだろう。植民地住人を互いにいがみあわせて宗主国への不満逸らしとするアレだ。顔が同じってのは、同じ階層ってのを意味し、同じ顔の者が出会えばどちらかが必ず死に、死んだ人間のリソースは生き残った人間に奪われるわけだから、必然性のない競争を煽られて互いを傷つけあうって姿は、特にここ10年で顕著になった成果主義による社会の荒廃に相当する。マスタールートがサブのテラを吸収するっていってたが、実はマスターかサブかなんてのは、よくよく考えてみれば生き残ったほうが結果的にマスターになっているってだけ*1の話だ。しかも親が金持ちであったら当然子供にもよりよい教育が施せるわけで、生まれが高貴であればあるほど競争には有利であるってミもフタも無いお話。実際能力が全くないものでも、特権階級に生まれれば、でたらめなことをしても総理大臣になれるってのが現代日本でははっきりしているわけで、なんとも萎えるお話ではある。


 しかし、人間はともかく、元神霊はちょっと何に相当するのかよくわかんないな。実はかなり初期の段階から、人間と元神霊の関係は、いわゆるよりよき夫婦関係なのかなと思っていたりしてたんだけど、慶太はクロに対して恋愛感情は抱いていないって描写で、かといって幼馴染の茜にも恋愛感情はきわめて希薄だったりする。構成上恋愛感情は極力排除されているんだろうなとは思うし、実際に夫婦なんて恋愛結婚であったとしても恋愛感情は結婚生活の極々初期にしか存在しにくいものである。で、結婚生活の大部分はどちらかというと経済共同体や運命共同体の性格が色濃いのであって、それは確かに表現されているとはいえる。大体人間と元神霊の契約は異性同士がノーマルであり、同性の組み合わせは特殊って描写のような気がするわな。でもちょっと決め手には欠ける。


 というわけで、とりとめも無く書きなぐってみたんだけど、どうも終盤になるにしたがって抽象化の度が激しく、どうも戦いの描写に思い入れを持ち難くはなってきた。エネルギーのぶつかり合いを見ててもなんかしっくりこないんだよな。でもさすがに格闘シーンはオーバーアクションながら迫力はある。次回は3人のうち2人の真神が倒され、残った1人と慶太・クロが戦うらしい。まぁ見なくとも慶太たちが勝つ流れにしかならないわけだが、その後の世界をどのように描く(提案)するのかはちょっと楽しみだったりする。

*1:そう考えるとマスタールートが多くなるっていうことは我欲の強い人間の割合が多くなるってワケで、そいつらの誰かが真神化する=真神が復活するってのはよく考えられているわな。