ウエルベールの物語 〜Sisters of Wellber〜 第二幕 第26話「結実の章」

 ウエルベールの王座に座るものは侵略者であってはならぬ。
 いやぁ、最終回でわりとまとまりましたね。レオンガルドというガジェットが今一だとか、ウエルベールの航空隊がウソ臭いだとか終盤に入ってなんともメチャクチャだと思っておりましたが、むしろ何かのメタファーだと視聴者に悟らせるためにわざと滑稽にしたのだとすると合点がいく。最終回の半分を使って、復興というよりは孤児院のエピソードを持ってきたというのも、この作品の表のミッションである戦争回避とティナの復讐とは関係がないということを考え合わせれば、この部分に込められている主張が大きいものなんだろうなと思わせる。全体を見渡してみるとなかなかに色々なメッセージがわざと尻尾を隠さないような形で現れていたような気はする。
 とまぁ、最終回だけの感想にはなかなかなり得ない気がする。最后のジェシカで、「誰だっけ?」と思ったのだが、その後の展開で思い出した。形式上第1期、第2期と分かれてはいたものの、ある程度は一体となっていたと考えていいのかな?。実は前にも言及した通りこの作品に対して感じていたことがあって、それは「過去のおとぎ話に出てくるお約束の集大成」という側面だったのだが、いざ最終回を視聴してしまうとそれはかなり間違いだったことに気付いた。
 第1期がサンガトラスとの開戦を回避するための密書届け、第2期で実際にドンパチやっているところ、そして形の上では時系列的に逆転し、戦争による災禍を先に描いちゃっているが、それから鑑みると一貫して“反戦”というメッセージが窺える。そして、戦争は実際には避けられるものであるという主張もなされているように思える。あまり経済について詳しく説明しなかったのはリアリティを損なうものではあるが、本作の場合は混乱の原因となるだろうから省略して正解だろう。「狼と香辛料」が一見よく出来た経済モノのように思えてしまうが、アレはキャラ達を動かしやすいようにその都度後付けで都合のよい経済現象を取り上げていて実はたいしたものでもなく、経済の流れをドラマで描くのは困難だからだ。
 あとは反権力*1というより、“ありうべき指導者”の姿が描かれているわけだ。ハイデル一族(シオール家ではなく)のありえないほどの清々しさを描くことにより、「今の日本の権力層は反対のことをやってるだろ」という批判をしていると思われる。リタは国民視線を持つ為政者、ティナは自立志向を持つ国民のメタファーで、苦しい状況でも両者が協力して乗り越えていくべきだとでも言わんばかりである。リタの孤児院救済のための資金援助の台詞にしたって、金は出すけど、そのことで上下関係を作ろうとしない…つまり今の自民党のように国民から税金を取り上げているのに、あたかも上が金をばら撒いているからありがたがれ、格差は仕方がないことだと諦めろといっているのとは全く反対である。
 ティナやリタも成長していっているというのも嬉しかった。その中で世の中を杓子定規に見るのではなく、「混乱しているのにも事情がある」という視点が、喰い詰め者をさらに追い詰めるということにはなっていなくて感心した。
 結局前述した通り、自分がこの作品に対して突拍子の無さを感じていたのは、ドラマ性を作るためにおとぎ話の様式を利用したと思っていたからだ。ところが実はそうではなく、おとぎ話の様式を使って現代の比喩を行っているモノと見なせば、結構よく出来ていると感じた。あまり精査しているわけでもないが、キャラクターなり事象なりが現代の何のメタファーや記号であるのかを探りながら視聴すると、結構楽しく視聴できると思う。個々の要素は割と具体的に対応していると思うので、「シムーン」ほど難解ではなく、対象範囲が広く取られている。見かけによらず、かなり諧謔的な作品じゃないかな。
 実はかなりの良作だとは思うんだけど、アニメに対して読み込みを楽しみにしている層は少なくて、対象範囲を広く取れば滑稽な作品と思われ、かといってアニオタ層に対しての訴求力は限りなく低そうである。まさか楽しみ方をレクチャーしながら放映するわけにもいかないだろうし、マーケット的にはかなり苦戦…たぶん惨敗したのではないかと思うのが悲しい。自分ですら何でこの作品を視聴しつづけるのか不思議なくらいではあったのだが、でも話の先が気になって次が見たいと思わせる作品ではあった。自分としてはもっと言いたいことをはっきり言う直球勝負のほうが楽に見られると思うんだけど、そうしてみたところで、マーケット的に成功するかといわれれば無理だろう。かなり楽しませて貰った作品*2なんだが、ちょっとここは客観的に判断して、おもろ評価としたい。スタッフの皆さんはお疲れ様でした。

*1:正しい権力の使い方ってモノはあるわけで、ここでいう反権力とは、今の日本を混乱させている権力に対してアンチの主張という意味である。反自民なり反現経営層なりと言ったほうがわかりやすいか。

*2:もちろんイイ意味で。