君に届け 第15話

 兵は拙速を尊ぶ。
 胡桃沢はいい女でありました、以上。というお話。いざ風早争奪合戦が終わってみれば、胡桃沢も運がなかったんだよなと思った次第。そりゃ確かに後付けでもっと早くから風早にアタックしとけよとは言えるんだが、胡桃沢のタイミングもよくよく考えられたものだったんだなと。爽子なんて、意識圏外にあるのはそうだろうし、それが急上昇するなんてのも想定外だろう。
 そもそも爽子の存在がなければ、というか、爽子の頭角が現れてこなかったら、胡桃沢だって悪い噂を撒き散らすことなく、周囲の合意も得て見事風早を射止めていた可能性が高い*1わけで、今回披露された中学時代の胡桃沢と風早の馴れ初めのエピソードと繋げると、それはそれは見事なハッピーエンドを迎えていただろうというわけだ。まさに君に届けというタイトルは、胡桃沢から風早への想いが届くといった意味の別のラヴストーリーとなり得ていたわけで、Nではないが、胡桃沢にとってこの展開はまさにNTR、悪夢でしかない。しかも、気がついた時には帰趨が既に決していて、たとえ噂をばら撒かなくても事態は変わらなかったわけだ。
 しかし、胡桃沢物語を追ってみると、これまた泣けるわな。男を引っ掛けるために利用され、いや、それに気付くまでは純真そのものだったんだろ。で、凹んでいるときに風早に情けをかけられ風早自身に自覚の無い釣り針に、喉の奥にがっしりと引っ掛けられたわけだ。いや、あの風早の下心の無い気の遣りように心なびかない女なんていないだろ。あの場面ではまるで自分が胡桃沢にでもなったかのような気分で、あのわんわん泣き出す感情の発露ってのがわかるような気がしたよ。それからも風早を物にしたい一心の忍耐の日々だろ。心を殺しての潜伏ぶりとか、けなげじゃないですか。それが、それが高校に入って、下ごしらえを着々としている間に油揚げ掻っ攫われるわけだからだな、そりゃ堪らんものがあるでよ。
 でだな、そういう下地があって、悪い噂をバラ撒くってのはよっぽど追いつめられてたんだなとか、爽子の純情攻撃で素顔を晒したり、風早への純粋な気持ちを吐露したりだのってのは、そりゃリアリティは無いにせよ、構成としてはよく出来てましたな。だんだんさばけていって、ある意味いい女に脱皮したように感じたのだが、よくよく考えてみれば胡桃沢は初めからいい娘だったってだけで、別に彼女自身が変化したってわけでもない。殻を脱ぎ捨ててさっぱりしたよねぐらいに感じたほうがいいのかな。
 しかし、風早もなんだかな。爽子はリスクを背負ってっていう発言は、彼の観察眼や洞察力を示しているんだけど、自分に向けられる好意には気付かないってのはどうなんだろ。まぁそれで彼がそれをわかるって設定にしちゃったら、途端に物語が成り立たなくなるわけではあるんだが。
 さて、今回は言及しようと思ったらいくらでも取り上げることの出来るネタが満載だった。で、盛りだくさんっていう印象はあんまり無いんだよな。この甘ったるいストーリーを見続けられるのは、やっぱその散りばめようが上手いからなんだろう。見始めるまではちょっと壁があるんですよ…。でも視聴したらのめり込むというか。
 今回の爽子の寝顔は、スタッフ渾身の作画だよな。

*1:とは言え、風早の特性からすると、胡桃沢の積み上げていた「物品の貸し借り」などで接触度合いを高める末の「告白」で、風早ゲットぉお!できたとは思えないわけなんだが。