ミチコとハッチン 総評

 とは書いたものゝ、実はあまり総評をやる気が無い。この作品のシリーズ終盤でぼんやり気付いたことがあって、それが妙に気になっているのだ。自分の感覚でうだうだ書き散らすので申し訳ないが、〜のような気がするって不確定な情報を多用するのでご容赦いただきたい。
 その、気になったことってのは、端的にいえばこの作品は「生んだだけの親の否定」ってことだ。昔の物語ってのは、育ての親がいながら、生みの親を捜して、その「本当の親」を見つけてメデタシメデタシといったものが多かったような気がする。ところが、この作品は序盤はそういうの(ミチコに対しては初めの男を神聖視させる)を匂わせながら、その実仲間の絆を中盤で強調し、最後育ての親に収斂させていったのだ。そして結論として、例えばヒロシは情けない男ながらも、家族を支えるために変化を示して暖かい関係を継続させたという昔話にありがちなハッピーエンドにしてもいいのだが、してない。
 昔の物語にしたって、ダメな男はやっぱダメって認識はあったと思う。が、なにせ昔は生きること自体がしんどい時代だったわけで、生みの親が子供を手放すのもしかたがないという風潮もあったのだろう。で、そういう厳しい時代だからこそ現実を超越してすべてがうまくいくハッピーエンドなストーリーを提供する必要があったのだろう。
 それにしてもだ。現代日本は不況や悪政のため庶民に生きづらい世の中になったとはいえ、昭和初期のような、地球寒冷化による不作を伴う、全体的に貧乏な時代と比べれば、はるかに社会保障が充実しており、贅沢さえ言わなければ生きつづけることができるわけだ。その中でクレーマーやモンペなど、というかモンスターペアレンツなど、子供をダシにして自分勝手する親が増えた。昔からバカ親は居たそうだが、そういう理不尽が社会的に認められる風潮がほとんど無く、現在はむしろそういうクレームをマスゴミや政府が推奨しているような時代だ。昔は結婚前の性交渉はおおっぴらには認められなかったと思うんだが、今や出来婚という恥ずかしい行為を授かり婚と推奨しているぐらい物事が転倒している。そういう風潮で、親が子供をきちんと育てず、先ほど挙げたように子供をダシに自分が楽をしようとするとか、児童虐待をしたりとか、親が子供の売春の手引きをするとか(これは昔もあったようだが…)、親が子供を大事に育てるということから逆行しているような感じがする。
 そういうわけで、子供と真剣に向き合うミチコというのを提示しているんじゃないかと思ったのである。昔だったら子供は親の背中を見て育つと言われたぐらいなので、本当なら台詞にしなかったものなのだが、全力で守るなんて何度も言っているのは、強調のためだろう。ミチコは終盤、ハッチンを昔の男と会うためのダシにしていると指摘されていたが、ミチコ自身さすがにハッチンの親とは思っていなくとも、孤児院での経験から年長者が子供に対してどうあるべきかなんてのはわかっていたわけで、そういうミチコの態度にハッチンも信頼すべき大人としてミチコを認めていく。で、そういう役割を果たさないヒロシをハッチンは最初っから認めていないし、ヒロシの行動を熟慮して、最後には拒絶に近い立場になっていた。それで、赤の他人であるミチコを待ちわびて、自分から会いに行く。で、視聴者としてその行動に違和感を全く感じない。
 この作品を視聴して、思い浮かべた作品があって、一つはエル・カザド、もう一つはR.O.D the TV、で、もう一つは男はつらいよだった。ミチコはかなり性格的に強引ながらも、ポジション的には寅さんなわけだ。で、旅で知り合ったゲストはなぜか寅さんの人間的魅力に惹かれていく。ハッチンは現状に拘束されてがんじがらめにされており、その境遇から解き放つ人間を求めており、ご都合主義的にミチコが現れて強引にハッチンを攫うわけなんだが、そのミチコにハッチンは最初は抵抗を示しながらも惹かれていくってのは構成的に男はつらいよと似ていると思うのだ。寅さんはヒロインと物語の最後では必ず別れなければならないが、ハッチンは逆。で、昔は「他人は他人」だったのが、今は「身内というよりは他人との協調」がテーマとなっている。
 社会的変遷を書くと長くなるのでやめておくが、昔の「元の鞘に収まる」ってのが時代遅れとなり、こういうストーリーが提示されるってのは、自分の世代だと時代の変化を感じさせる。いや、自分が子供の頃だって社会は既に壊れていたような気はするのだが。
 さて、そういうわけで、結論もヘッタクレも無いのだが、もはや今は無条件に自分を受け入れてくれる安住の地なんてどこにもなくて、そういうのは作らなきゃなんないんだよというメッセージのようにも思えた。全体がそうなっているとも思わないんだけど。でも人と人との繋がりについては始終考えさせられた。
 第1話の段階では現代日本を活写している部分が大きいと感じていたんだけど、いざ見終わってみるとそれほどでもなかったかな。全体的には非常にクォリティの高い作品で、やっぱ名作かおもろかでまようんだけど、ちょっとしたクサさを除けば、今のところ名作評価と考えてます。スタッフの皆様にはこういう良質の作品を提供していただいて感謝したいぐらいです。もうちょっといろいろ言及したい部分はあるのですが、ひとまず擱くことに。