マッハGoGoGo 第45話 カーレスラーX

 終戦直後のかほり。
 若い視聴者はわからないと思うんだが、この作品放映当時、チョコレートを他人から貰う意味とか日本人の誰もが周知していたことだ。レスラーXことハヤブサは、合衆国にけんかを吹っかけて見事負けた帝国陸海軍のメタファーである。もちろんアメリカナイズの象徴である剛は合衆国のメタファー。終戦当時、進駐軍からチョコレートを恵んでもらう子供達に、食うにも事欠く親たちの世代はそれを見苦しいと思っていても何もいえないという状況が続いた。戦時中あれほど敵に勝つために我慢しろ、我慢すれば敵に勝てると無茶なことを言っておきながら無条件降伏という有様。そりゃ子供は子供でも、ちょっと物心がついていると、とても政府を信じることはできなかったろう。その世代が放映当時30代ぐらい。その彼らに小学生ぐらいの子供がいてもおかしくない。
 占領しに来た進駐軍は豊かであった。それこそ右も左もわからず、親から満足に食事も食わせてもらえずに腹ペコだった子供は、ギブミーチョコレートと物乞いする始末。そりゃ親はたまらないだろう。自分が不甲斐ないことをわかっている場合には何もいえないだろうし、むしろ無謀さを押し切って戦争して見苦しく負けたくせに、子供ですら合衆国に媚を売るのを見て自分を抑えることができずに「物乞いまがいのことをして恥を知れ」なんて八つ当たりする層がやっぱりいたわけで、まさにそのメタファーがハヤブサである。剛とのスピードレースでは自分の操作ミスで優勝できなかったのに、剛に八つ当たりしているところなどまさにそっくり。たかだか建国2〜300年ほどの若い国が合衆国で、日本は1300年ほど*1の古い国であるから、剛よりハヤブサが年上っぽいのも良く似ている。
 しかし、今回の話をよくよく考えてみれば剛やその取り巻きの行動はやたら嫌味だわな。ハヤブサ自身にそもそもの不手際があるものゝ、剛にストーカーされたり、クリ坊に子供を呼びつけられたり、挙句の果てには剛がハヤブサカーレスリングをやめさせるはずが、ハヤブサが剛を思いとどまらせるために出場したんだよというヤラセを子供の前で演じたりなど、どこまで思い上がっているのかと思った。
 しかし、これは実は批判するには値しない。自分なんかはチョコレートをハヤブサの息子に渡すところからピンときて、引き込まれていったというか。結局剛たちの思惑通り事は進んでしまっているわけで、たしかにハヤブサがあのまゝカーレスリングを続けるというのも考え物なのだが、日本がアメリカにうまく丸め込まれてしまっているという描写に他ならない。
 で、それは1960年に岸信介によって強引に結ばされた新安保が10年を迎える1970年を目前に、各地で盛り上がる安保闘争の萌芽ともいえる描写ではあったのだろうと思う。今まで自分の興味でだけ動いていたクリ坊が他人を巻き込むという不自然さを示していることからも窺える。とにかく既成事実を作ってなし崩し的に、自分の思い通りに事を捻じ曲げてやれという態度がクリ坊を通じて描かれているのだ。対象視聴者層がかなり低い年齢に設定されている本作だから、さすがに父ちゃんはまっとうな道に引き戻されましたよという結論にこそなっているが、なんとも強いメッセージが今回には敷き詰められていると思った。本当に開始五分ぐらいから別番組かと思ってしまいましたよ。でもまぁ子供には伝わらないんだけどな。スタッフにしても子供には伝えるつもりは無かっただろうし。

*1:他国と外交関係を結んでいた時期を考えると、もう100年ほど古いとは思うが。