Hidden Value 終わりに

 前々回は、安定した経営を続けるにあたって必要なことを考えてみた。解はたぶん無いんだろうと思うが、今の日本企業が陥っているように、従業員を大切にすることを忘れ、顧客でなく利権集団を形成すると、経営の効率が落ちる事は間違いないだろう。酷い時には産業の空洞化まで招く。
 で、前回はなにやら消費社会のあり方という大それたところを論じてみた。全世界的に見て、互いに奪い合うのではなく、分け合うことのほうが多分安定した社会を築けるのでは?と多分に現実味の薄い提案…が古今東西そうして安定を維持してきた組織は多い…を提示してみた。で、全世界人口を考えると、消費社会のあり方そのものを考え直した方がよいと思う。
 さて、今回なんだが、うだうだ述べて、3週間にも及んだ本書の感想駄文を終えるとしたい。
 アニ感の部でも何度か触れたと思うのだが、文化人類学者としてレヴィ・ストロースが言ったとされる、「本当に欲しいものは、与えることによってしか得られない」というのを痛切に感じた。人は他者から何かを与えられたら、返礼をせずにはいられないという傾向があるらしい。で、本書は従業員ではなく、どちらかと言えば経営者向けの心がけを説いたものだ。で、やはり自分は日本人であるせいか、NUMMI東款・池淵浩介が述べたことに感銘を受ける。管理職が権限が無いかのように振舞うことにより、むしろ権限を得るところとか、従業員に働いてもらって利益を得ているんだから、むしろ管理職は従業員のために働くべきといった見識は、現在のブラック企業のあり方からすると、本当に同じ日本人が言ったことなのか?と驚かざるを得ない。
 自分のところは、もう創業者世代の遺風の片鱗すら見当たらない組織ではあるんだけど、経営層というか管理職の動機がよくわからない。名誉欲なのか?、威張りたいだけなのか?と言われると、いや人を傷つけてまで自分の名誉とやらを確保するというのは客観的に見て下品だろうと思うのだが、まさか本人が自覚してやっているのか?と思うと、とても信じられないものがある。彼らもかつては現場にいたのであり、彼らがいまやっていることは、彼らがかつてされたことでもあるハズ。それでかつてされたことが正しいとそのとき感じていたのか?と思うと、まさか自分が受けた不条理を正しいと信じて今部下に同じ目に遭わせているとも考えにくいのだ。が、それでも抑圧がなくならないことをを考えると、もう管理職の思考が麻痺してしまって、自分に誤謬のあるはずもないと信じきっているか、それでも仕方が無いとわりきってやっているとしか考えられないのだ。かといって、彼らに東款・池淵浩介が語っていることが備わっているとは到底考えられない。そうでなければ、自分の権力維持のために積極的に抑圧しているというのでビンゴ!だろ。
 なんつーか、特権階級にしても、従業員のことを第一に考える慈愛深い経営層のような性根を持ち合わせていなくとも、むしろ従業員に尽くす態度を見せることによって、従業員に尽くさせるというぐらいのうわてさを持っていてもよさそうなものである。人間が持つという「返礼」意識を逆用するのだ。老子なんかも、「奪う者は、まず与える」と言っている。が、現代の欲深い特権階級や管理職は、奪うことに血眼になっており、それを隠そうともしない。で、従業員や庶民はそれを見透かしてしまっているのだ。
 本書はあくまで成功例を挙げて、経営層には「自分でやり方は掴め」と言っている。こうすればうまくいくよというのではなく、警鐘を鳴らすという形式をとっているように思えた。で、日米での相違を考えてみたかったのだが、何せ自分が合衆国に持っているイメージはやはりマスゴミや書籍による伝聞情報が主で、どうしても自分自身が実感を持ちえなくて、あまりツッコむことができなかったように思う。が、理念を共有し、同じ組織で共生するメムバーとして行動するべきという主張の根っこの部分は国によっての差があるとも思えなかった。理想の組織とは?といった主題が、実は今視聴しているアニメが通底して語っていることにもある意味驚きを感じた。
 自分的には単に営利団体における組織論にとどまるのかと思っていたのだが、いろいろ考えていくうちに世界のあり方にまで思考が及んでなんともネタとして面白かった。自分の職場環境を考えると、管理職に恵まれてこなかったせいか、愚痴も多く羨望の目で眺めることも多かったのだが、そこは容赦願いたい。自分のアニメ感想のスタイルと同じく、内容を紹介するというよりは、作品を通じて自分が得たモノを中心に記述を行ったので、わかりにくい部分も多かったと思う。やはりこのような駄文を目にするより、本書に直接あたった方が得られるものは大きいと思う。