Hidden Value PSS・ワールドメディカル

 PSS・ワールドメディカル(以後PSSと略)は医療機関向け機器販売業である。読んでいる限り薄利多売という雰囲気ではない。買収をして会社を大きくし独占販売権を得てマージンを大きく取るとか、豊富な品揃えを武器にしているっぽい。あと、たくさんの取り揃えをしているのに、在庫を持ち、独自の流通網を用意しているってことだ。最低販売量を決めていなくて、顧客までいち早く届けるってことらしいから、値段よりは利便性で勝負している感じだな。
 社員を大切にするのはここでもそうだが、ちょっと引用をしてみたい。

 三年程前にテーラー・メディカルを買収しましたが、そのころダラスにあった倉庫は混乱を極めていました。先方の文化はまったくなっていませんでした。倉庫のいたるところにカメラがセットされ、マネージャーが自室で座って全社員を見張っていました。ここを変えなければならない、そう思いました。買収契約が成立した翌日、私はミネアポリスのゲーリ・コーリスを電話で呼び出して「ダラスに行ってもらいたい、あちらの社員みんなに紹介するから」と言いました。
 あとはゲーリに任せました。ゲーリは社員に向かって次のように言い渡しました。「夕飯を運んでもらうことにしよう。明日の夜までじっくり話し合おうじゃないか。PSSがどんな会社か、これからどんなことになるのか」
 私はその日の夕方に帰宅しましたが、ゲーリから翌日の深夜にボイスメールが入りました。「PSSが高額のカネをテーラー・メディカルに注いだことは十分に承知しています。ですが、まずは、今夜ビルのなかにあった一万ドル相当のカメラとビデオをぶっ壊したことをお伝えしないわけにはいきません。必要ならこの言葉を書き留めて置いてくださって結構です。なんなら、私を減給にしてください」。ゲーリは野球のバットを持ち、ミーティングの場に行き、従業員たちに向かって「嫌でたまらないことを洗いざらい話してくれないか」と言ったのです。みんなが何をいの一番にあげるのか、ゲーリには分かっていました。案の定、みんながカメラを指したのです。ゲーリは持っていたバットを一振りして、壁から一台のカメラを叩き落しました。そして「だれかほかにもバットが欲しい人は?」と言ったのです。すると、みんながたくさんあったカメラに毛布をかぶせ、全部叩き壊しました。それがきっかけで、みんなと社内文化についてのあらゆる話し合いが始まりました。あれからもう六ヶ月経ちましたが、離職したトラックの運転手はただの一人もいません。

 マネジャーはいないというか、リーダーになっている。管理職は叩き上げによるものなのだろう。経営方針のマニュアルも無いらしく、文書は極力排除される。毎月メモを受け取るが、そのメモ以外にはあまり文書はないようだ。
 募集は口コミが大半のようで、採用に一ヶ月半〜二ヶ月ほどかける。やはり企業文化に沿った人を採用するとのことだ。MBA取得者は採用したことが無いらしい。就職希望者には電話番号を伝えるだけで、彼らに積極性があるかどうかが試される。
 研修にも力を入れていて、新人は営業でもトイレ掃除からトラックの運転、荷物運びに始まって4ヶ月ほど研修を受ける。いろんな部署への異動もさかんで、いろんな仕事を覚える機会がある。
 リーダーは自発的に希望するものになっている。が、給料はむしろ下がるとのことだ。そもそも従業員の給料は初めのうちは基本給が大きいが、勤続年数が経つにつれ基本給の割合が減り、歩合制の割合が大きくなる。従業員の裁量が大きいので、リーダーは部下のウケが悪ければクビになることもありうるらしい。帳簿は情報公開されているため、従業員も経営の立場に立って職務を考えることができるらしい。誠実に行っていれば失敗を理由にクビということはない。が、アカウンタビリティとレスポンシビリティは必要とのことだ。アカウンタビリティは日本では説明責任と訳されているが、これは報酬の伴うものであり、レスポンシビリティは義務感によってやらされるという意味合いが強いとのことだ。まぁ日本でアカウンタビリティと呼ばれているものはあちらではレスポンシビリティにあたるものであるらしい。
 うーん、特徴をまとめるとすると、現場に権限も与えるけれど、割と仕事に関しては責任を要求している感じがするな。上司というか経営層は現場のサポートに徹しているような雰囲気っぽい。基本は流通だからさや稼ぎなんだろうけど、職務自体としてはのんびりというわけでもなさそう。給料がどちらかというと歩合制に近いのがそれっぽいな。PSSの給料が業界では高いのか低いのかわからないし、福利厚生も充実しているのかはわかんない。従業員の熱意や意志が尊重されているってところか。現場は営業と配送が主だろうから、そうそう技術革新の余地はあるとも思えないな。同業他社との競争にかなり意識して会社運営がなされていると思う。営業マンにとってはやりがいのある職場なんだろうと感じた。