化物語 総評

 単に女遍歴を示すアニオタ向けの作品化と思ってたんだけど、話が思ったより整っていて嬉しい誤算だった。原作が会話劇だったんだろうけど、全体的に止め絵が多い構図ながら、ピンポイントに動かしてくるのはなかなか。
 やっぱ気になったのは貸し借りの概念。自分が職場で体験するのにもかなり気になっていることだ。オモロイのは…といっても仕事上の死活問題なんで笑い事ではないんだけど、大体恩を仇で返す連中は雰囲気でわかるようになってしまった。そういうのは大概周囲に迷惑をかけていて、誰かの手を借りなきゃやってられない状態になっているんだけど、じゃぁ困っているから何か出来ることはないかと近づいていくと、まぁほとんどが礼儀知らずで何故か他人を小バカにするような態度なんだよね。それでもなにか配慮しなきゃ、そいつがなんとかなるというより、周囲のためになると思って気遣いするんだけど逆切れされ、なぜかこっちが悪者にされてしまう。いや、自分もホトホト馬鹿というか、そういうキチガイには近寄らないのが正解なんだが、なんかもう人生的に遅いというか。
 で、恩を仇で返すようなことをしない人ってのは、そもそも他人の手助けを必要としてないことが多いし、この作品と関連付けていえば、戦場ヶ原だとか八九寺のように他人の介在を嫌うって態度が多い。うーん、自分が窮地に陥ってわかったことなんだけど、他人を巻き込んで不幸にさせないための防衛策なんだよね。まぁ孤立してしまうんだけど、なんとも。んで、神原だとか千石などのように、自分の窮地に他人を巻き込んでしまっても、恩には恩で報いるってのがね、まぁこっちのほうはあまり実感は無いんだけど、本来こうあるべきだよねとは思ってしまう。
 ヒロイン達の混乱の原因として怪異というのを利用してたけど、まぁこれは大抵現実にある人間関係のイザコザのメタファーだよね。あんまり具体的にしてしまうと生々しくて見てらんないのでそういう形をとったに過ぎないというか。で、忍野がちゃんと大人の役割を果たしていたのも大きい。最近のアニメだと本来大人がやるべき主役なんかを無理矢理妙齢の男女にしてしまうもんだから、その分平均年齢がどうしても下がってしまう。しかも忍野は物語に関わりながらも、基本彼の台詞通り、本人達の問題として距離を保っており、現実社会にいやというほど居る、口やかましく介入してくるのに、実は事態を混乱させるだけのトンデモ大人ってんじゃなくて、立ち位置がもうね、絶妙。
 まぁそんなわけで、これもルパン三世じゃないけど、割と泥臭い三文芝居でありながら、見せ方がうまいし、なんといっても物語になっているんだよな。会話劇だから台詞回しのおかしさを耳にしてしまうんだけど、じゃぁあとからこの作品を振り返ってみて、そういう客寄せパンダ的な小手先台詞はほとんど思い出せず、構図が頭の中に浮かんでくる感じ。
 表面をなぞるだけだと、ちょっとした流行モノにしか見えないんだが、成長を終え、成熟期を通り越して病んでしまっている日本人の精神状態を表している気はする。政治なんか結局コネと実力無き権力で動いているところなんて平安時代室町時代にそっくりで、じゃぁそのときに何が流行ったかといったら、陰陽道なんかのオカルトだったり、宗教だったりするわけだろ。そういう日本のグダグダな状態自体を描きたかったわけでもないだろうケド、そういうのを押さえた上で読者に物語ってみせる態度はなんとも冷静というしかない。そういった意味で、わかりにくいメッセージ性というか、そういうのを意識してないというかさせてないんだけど、まぁうまく手のひらの上で転がされたことを評価しておもろ+としたい。