国民の敵、検察のあり方。竹下派死闘の七十日 (文春文庫)より。

 まぁ検察といえども、政治屋の逆鱗に触れると馘が飛ぶわけで、しかしそれで政治屋のほうばかり向くのなら、税金で給料を貰わずに政治屋に飼われればいいじゃんという考えも。刑事事件では検察が容赦なく国民を糾弾しているのに、なぜ政治屋の犯罪は全力で見逃し、配慮までするのか?については色々議論されなければならないと思う。自民党系の有識者だけは除いて。

 つまり、赤松は、渡部が供述はしていても、検察当局から法廷などで表沙汰にされることはないと断言した。赤松がなぜ、断言することができたのか。言うまでもなく供述を法廷に提出するかしないかは検察当局が判断することである。しかし、赤松の言葉は自身に満ちていた。この間の事情に精通したある人物は言う。
 「実は東京地検特捜部は、赤松の事務所を捜索し、渡部の接見メモを押収している。このメモのコピーを取って、後で返しているが、弁護士事務所の捜索は明らかに違法行為。検察はこの違法行為を暴露されるのを恐れて、供述の一部を公にしないことを約束した。」
 小沢はこの裏の事情を知らなかった。そのために、赤松の言動から供述があるとみて、その供述は法廷に提出されなくても何らかの形でマスコミに伝わる、と判断した。
 小沢がこう即断した背景には、リクルート事件での手痛い経験がある。当時、竹下内閣の官房副長官をしていた小沢は、検察当局からほとんど情報が上がってこないのに、検察から漏れたと考えられる話が連日、新聞紙上で報道されることにほぞを噛んだ。小沢は検察のリークにいら立った。
 「検察は自分たちの狭い範囲の正義感だけでもって判断している。検察に政治が握られているような状況がいいはずない。だいたい歴代の法相が人事をいじらないからダメなんだ」
 そして、五億円事件で再び、「検察に政治が握られている状況」が生まれた。
 小沢の政治家としての歩みの一側面は、検察との戦いだった。精魂込めて作った竹下内閣は、小沢が検察のリークと見たリクルート献金先の政治家名の報道で、政治不信が高まり、倒れた。その前には、親代わりだった田中角栄ロッキード事件で検察に逮捕され、裁判闘争を政治戦略の軸に据えざるを得なかった。小沢は田中の公判を毎回傍聴していた。そして、今回、自分を育てポストに就けてくれた金丸が、検察の「攻撃」にあえいでいる。検察への対抗意識から一矢報いたい、との心理が頭をもたげた。(p47〜48)
 後で内情を知った政界事情に詳しい、ある財界人はいった。
 「ああいうことをするときは、だいたい地検と話をつけてからやるもんだ。それをすぱっとやってしまうのは、金丸さんらしい男の美学なんだけどね。何の対策も立てずにやってしまった」(p54)

 地検特捜部が仕事をしていたのは、ロッキード事件からリクルート事件までらしい。まぁ管区は違うんだけど、財界人が検察と話をつけて犯罪のもみ消しをやっているわけだからして、そりゃ労働基準法違反が蔓延していても、監督局が一切動く事はないというのはなるほどである。それでもこの五億円事件のときは、まだ不正を正そうという気概が見られる。

 金丸は九二年十月に衆院議員を辞職するまで、自民党最大派閥のドンとして君臨していた。議員辞職後、竹下派は分裂し、長老として政界での影響力をふるう足場を失った。それに追い討ちをかけるように、金丸は九三年三月六日、突然、所得税法違反(脱税)容疑で秘書だった生原正久とともに東京地検特捜部に逮捕された。
 この逮捕劇は、金丸にとっても生原にとっても寝耳に水だった。金丸は逮捕される二日前、渡部恒三の仲介で通産省幹部と会食し東京佐川急便事件のことなど忘れたかのようにふるまい、逮捕当日に、国会近くの金丸事務所が入居しているマンションの正面にあるキャピトル東急ホテルの一室に呼び出されたときも、最初は何の意図か分からなかった。生原は自治省に対する九二年の政治資金報告書の提出期限が三月末にせまっていたので、東京地検に「去年提出した政治資金関連の資料を返してほしい」と頼むと、六日午前を指定され、そのとおりに行くと、取り調べを受け逮捕された。
 この逮捕劇は金丸の影響力がなくなったことをはっきりと物語っていた。というのは、この事件は、国税庁が九一年十二月に死去した悦子夫人の遺産を調べているうちに、金丸の不正も発見し、東京地検に通報しようやく事件として立件できたものだ。東京地検特捜部だけの捜査なら情報が漏れることはあまりないが国税庁の情報は大蔵省に伝わる。国税庁は幹部のほとんどが大蔵省のキャリア組で、その人事は大蔵省の人事の中に組み込まれ、人と共に情報も行き来している。実際、金丸が逮捕された六日早朝、ときの首相宮沢喜一の元には大蔵省から「金丸に対して強制捜査を行う」旨の連絡が入っている。政界のドンであったときなら当然に入っていたであろう情報が、金丸にもたらされることはなかった。(p233〜234)

 まぁ金丸の逮捕を見逃したのは大蔵官僚であった宮沢の金丸追い落としであったのだろうが、東京地検だけの捜査だとやっぱ政治屋に有利なように取り計らったりするらしい。しかし、公務員改革というものは、実は官僚が大蔵省や国税局を握ってしまうと、政治屋にとってはコントロールが効かずに自分の不正を暴かれてしまうと困るから、その流れを断ち切ったものなんだろう。公務員叩き・官僚叩きをマスコミを使って演出し、官僚が政治屋の言うことだけを聞くように改悪したもんなんだろうな。検察の人事を政治屋が握るという先の発言だって、政治屋の犯罪を国民から隠蔽するためのもの。国民は官僚を糾弾してご満悦なんだろうが、その実、政治屋を利し、国民自身の首を絞めるものなんだろうな。
 自民党清和会にしてみれば、金丸が親分を気取って間抜けな態を晒し、小沢が喧嘩をしている様子をみると、そりゃ検察は敵とするより金を恵んでやって飼い馴らせばいいという結論になるわな。どうせその金は国民から搾取すればいいこと。検察にとってみても、その金がいくら自民党の私利私欲で決められた法律でも、それにのっとっている限り合法なわけで、政治屋と対決して自分の人生を棒に振るよりは、不正行為を見逃して金は入るは天下りもし放題なんだから、笑いが止まらないだろう。人事権なんてとっくに自民党が握っているだろうから、正義感を少しでも見せたら出世できないだろうし。まぁ検察にとってみればがんじがらめになっているわけで、それから逸脱しようとすればとてつもない重圧はかゝるわでいいことなんて一つもない。
 一国民としてみれば、政治屋が検察に守られて好き法題しているのを黙って指をくわえて見ているしかないのだろう。