怪病医#12

 ラムネが師匠の紅葉に言われた患者に感情移入しすぎる件を、弟子のクロに何とかしてもらう話。あー、なんのかんのいって今までのグダグダも、変な話この一点に集約してたのだとしたらなるほどといったところ。近代以降の日本は核家族化し、寄る辺なき孤立化した民となっていたのだけども、昭和期あたりまでは医者であればかかりつけ医という形で、そうでなくても教員や、また商店街に行けばなじみの店なんかがあったりして、そういうハブに当たる人たちが共同体とはいわないまでも個人が完全に孤立化するのを防いでいたというか、緩やかな連帯をつくるノリのような役割をしていたわけなんだが、例えば医者でいえばやれ医療過誤訴訟だとかセカンドオピニオンだのといった流れで、もう消費者の道具といった形になってきており、教員はモンペのおかげで学校崩壊なのは言うまでもなく、ましてや商店街など大手スーパーなどの進出で壊滅状態になって、すべてが完全に孤立状態というか、さらにいえばいがみ合うような関係にまでなってしまってる。そういう中でラムネの態度は、まぁドラマだから必死に助けた行動の結果が報われるという形になってはいるものの、一歩間違えば単なる便利屋として使い倒されることになってしまうわけで、それに対する答えが、ステークホルダー同士で緩やかな連帯を作ろうという今回の結論なのであったとしたら、それも一つの形だよねみたいな。なので、今までのいろんなテストケースはそれ自体がお涙頂戴として楽しめるようになっていながら、それは見方を変えればラムネが患者たちに恩を売ることを着実に積み重ねていく行為だったということであり、その集大成が今回の話になっているとしたら、前回までの自分の考え方も修正しなきゃなという。ただ、現実にはこんなにキレイに解決して患者たちが恩に着るようなことばかりでもなく、ラムネに逆ギレするような消費者めせんの患者もいるだろうしで、そのへんはまぁこれはこれで一つの理想形を示しているだけなので…。
 しかしまぁ、ラストのクロの説明にあったけど、ラムネは変な話医療行為を一切しておらず、怪病の原因となったストレスを取り除くために関係性に飛び込んでいってトラブルシュートしてるだけなので、いくら診察してるシーンとか、セリフで投薬してると言われても…みたいな感じはある。それに、上記ステークホルダーうしの緩やかな連帯といっても、自民盗の搾取で、より助けの必要な貧困に陥った人々は緩やかにつながるための精神的もしくは物理的な余裕はないんじゃネェの?とか、前近代は、それこそムラの中で互いに縛りあう関係だったかもしれないが、緩やかな連帯とかヌルいことではなく、そこには理想的とは言わないまでも共同体が成立してたのであって、場当たり的な疑似共同体を目指すのはどーなの?といった感じ。つまり、前近代には確かにあった共同体が、近代になって崩れ、それを補完するために医師や教師、もしくは人工的に作られた自治体の構造がそれなりに機能していたのが、なぜ崩れたのか?、その崩れた原因こそが問題解決のための大きな構造なのであって、そこに目を向けず弥縫策でなんとかしようとするのは浅はかなんじゃね?という気はする。でもまぁマンガで示すのはとりあえず問題提起程度でいいとは思うんだが、それにしても、昔がそんなに良かったわけではないが、かといって時代が進めば進むほど社会は進歩するってまやかしじゃね?とは思うわけで、能天気にあれ買ってよかったとか、大もうけしたとか出世したとか、病気を治してもらってよかったのレベルで満足してそれでよいの?みたいな。戦後教育は明らかに近代市民の育成に失敗してるのであって、そしてこの作品がわざわざラムネのような善意の人におんぶに抱っこではいけませんよという段階から説かねばならないのだったら、あー日本は日暮れて途遠しだねといった感じ。
 っつーわけで、評価はニュートラルに近いといった感じ。トラブルシュートとしては詰めが甘いところが多くて途中げんなりだったけど、この作品がそもそも我々の社会はどこを目指すべきかという視点があるんだったらそう悪いものでもなかったなという。