自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来 (新潮選書) 読了

 ちょっともたもたしてたけど、面白かった。世界の暴動の大半はベビーブーマーのような「突出した若者層」が自分の居場所(地位)を求めてのことというのが要旨。確かに日本も団塊が成年に達すると全共闘だのゝ学生運動をやって暴れてたしな。中世あたりからの世界史にも関連付けて暴動の主役が「主要なポストに就けない」若者によるものってのをグダグダ説明。
 で、結局のところ古代から人間ってのは間引き・中絶などの人口調節をやってきたよ、産児制限を緩和すると出生率がハネあがり、もともとその共同体が持っていた高い地位のポストに就けないとなると、移民として出たり、国内残留組は少ないポストを巡って争っていたんだよというお話。こういうのを読むと、むしろ出生率が低いってのは節度のある国の行動様式だと感じる。出生率の高い国は基本好戦的なので危険な存在である。世界大戦も若者が銃をとって行っているというワケだ。
 で、世界でも有数の人口を保有する中国やインドは、その若者の突出部(ユースバルジと本書では呼ぶ)が中年期に差し掛かり、紛争の種になるのは免れている状態らしい。面白いのはその増えた人口が、国内では「食えない」のではあるが、実は食糧が足りないという意味での食えないというわけではなく、むしろ食糧危機で人口が激減する時代はとっくに終わっているらしい。なるほど。
 そういうのを目にしてしまうと、やっぱり人口調節は大事なんだなと思わざるを得ない。食料は何とかなるにせよ、人口増加期の折は国家は好戦的で、人口停滞期は国家がおとなしいということになる。若者が爆発的に増えている国は現在、イスラム圏・アフリカなどの新興国が多いらしいが、これらの国もいづれ人口停滞期を迎えるっぽいので、どうやらあと数十年後には今よりも紛争が少ない世界になっているようだ。
 あと面白かったのは金が所有権をあらわすものという視点だ。価値のあるものをたゞ保有するだけでは経済は活発化しないらしい。貴族が土地を持っているとして、それは持っているだけでは意味が無い。土地を担保にカネを借り、そのカネで労働者を雇うなりして耕せばより多くの富が得られるのだ。で、借りる時には必ず「利息」がつきまとい、その新しく生じた利息を払うために、持っている富以上の価値を生み出さゞるを得ないらしい。利息を返すために「余計に働く」ことが必要になるワケだ。そしてそういう経済構造に早くからなったのが西欧であり、その発展型が資本主義経済ということらしい。利息が労働を必要とするから経済規模が発展し、それは必然的に他国からの搾取につながっていく。で、西欧が植民地帝国を築き、最大領土を支配する結果となった。まぁそれほどキツい書き方ではないが、この著者も何かしら資本主義に対して好意的ではないっぽい。ユースバルジも資本主義も争いの元であるって考えだな。
 なんか、いろんな文献に当たれば当たるほど、近代よりは中世的な生き方のほうが人間が無理をせずに生きていけるんだなという感じが強くなる。まぁ元々中世は平和ってイメージではあるよな。だから、新自由主義者あたりが、「生産性生産性」と喚くのを目にしてしまうと、「あぁ、この人も自分が肥え太るために、資本主義の暴力性を利用してるんだな」と思うようになるだろう。中世の人たちが*1なぜ貯蓄をしなかったか、また「身内には無利子で、他人には高利で金を貸す」ユダヤが嫌われていたのか、なんとなく納得してしまう。かといって技術の退歩もなんだかなぁで。
 でも世界平和のためには中世化したほうがきっといゝんだろうなという気はする。中世を目指せってのもこれまたなんだかなぁで。
 オモロイのは、多分100年後から200年後ぐらいなんだろうけど、不変の原理と思われていた、世界人口は等比級数的に増加するってのが、そうでなくなるらしいってことだ。そりゃその頃には自分はおっ死んでいるんだろうけどな。でもまぁそれぐらいを目途に、現在の話題でいうと自然エネルギーへの転換、完全リサイクル社会を推し進めていかなくちゃならないんだろうなという気はする。

*1:カトリックならモロ貯蓄禁止で、余剰分は教会に寄付せよとか主張してなかったっけ?。